――前略、性別が入れ替わった父さん母さん。
 ボクは何が悲しくてこんなことをしなくてはいけないんでしょうか?――


『オカマは夢を見るか?』


「変なところ触ったらイヤだからね!」
「誰がブリ娘に興味があるもんですか! アタイの興味はバースよ!」
「それがキモいって言ってるんだよ」
「……とりあえず皆、落ち着こう。まずこの状況をどうにかしないといけない」
 ロアは仲間達の顔を見た。
 彼らは非常に接近しており、ひそひそ話にはもってこいだが別に内緒話を始めるわけでもない。
「このままでは身動き一つまともに取れぬ」
 ケイは六人の中で一番背が低く、話すときは自然と下からケイの声が聞こえてくるのだが今は、下からではなく、真横から彼女の声が聞こえる。
「このままケイを抱え続けたら、満足に戦えないんだけど」
 ケイを抱えたバースは、普段感じぬ重みにやや疲れた表情を見せている。一方ケイも人に抱えてもらうという行為はめったになく、どこか落ち着きがない。一度船から落ちるところをロアから助けて貰った以外はなかった。
「しかしどうやっても離れぬ、これでは街にも入れぬぞ」
 そう、ケイは怪我しているわけでも動けないわけでもない。彼女はバースの体から離れることができなかった。
 恋人と呼ぶにはあまりも年が離れており、だからといって兄妹と言ったところで顔があまりにも似ていない。
 少なくとも幼女を姫抱っこしたまま街に入ろうものなら皆の視線が注がれるのは目に見えている。
 だがその好奇の目にさらされるのはケイとバースだけではない。
「これも十分マズイよなぁ。『俺達はすっげぇ仲良しさんでーす!』 とか言っても通じなさそうだしよ」
「……なるべく変な誤解だけは避けたいものだが」
 ロアはおもむろに左腕をあげる。すると同時にアルバートの右腕もあがる。
「腕と腕がくっついてるから、かなり距離が近いよな、俺達……」
「まぁこんなに接近してたら変な方向で間違えられてもおかしくないだろうねぇ」
 ロアとアルバートは腕がくっついたまま離れず、ケイやバース達よりもやや暑苦しい印象を与える。幸い身長にさほど差がないのが救いであったが、二人は密接していると言っても過言ではなく『仲が良い』という言葉で片付けるのは少々苦しいいい訳だ。
「どうせだったらアルバートと一緒だったら幸せだったのに……。なんでソフィーはオカマちゃんと足がくっついているの!?」
「耳元でキャンキャン言うんじゃないわよ! それにそれはアタイだって同じことよ! 何が悲しくてブリ娘と二人三脚しないといけないの!」
 ジョニーとソフィーは互いに視線が合うと、すぐにそっぽを向く。
「まるで子供の運動会みたい……」
「それってソフィーが子供ってこと? ひどい、バースちゃん!」
「どう見てもそれ以外に見えないから。それより、これからどうするのさ? この『くっつく』元凶だった魔物は倒したけど何もかわらないじゃないか」
 バースが言うように先程彼らは魔物と交戦し、その魔物によって今の状況に陥っていたのだ。しかしその魔物は倒したのにも関わらず、ジョニー達の体は離れる様子を見せない。
「もしかして一時的に時間が流れないと戻らないものだろうか? もしそうなら今の私達にできることはないね」
「そんなぁ! 数時間もオカマちゃんとくっついてるの!? 不公平だよ! 絶対にソフィーはアルバートがよかったぁ」
「ホントしつこいわねぇ。こっちだって嫌々我慢してるのよ? ……願い叶うならバースとくっついてあれやこれと……」
「むぅ、ソフィーちゃんは可愛いんだから! 嫌々我慢してるなんて、しつれーしちゃう」
「はんっ! 自分で可愛いとか言ってるんじゃないわよ」
「もう止めぬか。そんなつまらぬことで言い争ってどうする? 問題なのはこの状態で魔物に襲われた時だ、恐らく満足に戦うことはできぬまい」
 バースに抱えられた今のケイでは満足に鎌を振るうこともできず、バースも自分の持ち味であるスピードを活かした攻撃もできない。
「なら一刻も早く、魔物の出ない所まで行こう。街道沿いは魔物が多く出ると言われているからね」
 バースは魔物から逃げる行為に納得できずにいたが、今のことを考えると仕方ないと何度も言い聞かせて頷く。
 一方、ジョニーとソフィーは歩き出そうと一歩踏み出すが、左右出す足が違い二人は転倒する。
「いやぁだぁー! 痛いよぉ!」
「ボクの顔に傷が……」
「どうやら君達はしっかり合わせたほうがよさそうだね」
 腕がくっついたロアとアルバートは歩くことに苦労はしないが、咄嗟に手を動かすときにどちらかが引っ張られるということはあった。
「大丈夫か! ハニー」
「アルバート……転んで痛いけどアルバートがいてくれるならソフィー頑張れちゃう」
「転ぶ姿も思わず可愛く見えるぜ。流石、お茶目で可愛いハニーだ」
 いつものようにアルバートはソフィーの手を取ろうとするが、ロアが「いきなり動くな」と呟き、彼は片手のみでソフィーの両手を握ることとなった。
「片手だといつもよりソフィーの温かさを感じるぜ……」
「いやん、アルバートったら。そんなに素直に言ってくれるところが素敵」
「そんな馬鹿言ってる暇があったら、さっさと移動しろって言ってるんだよ」
 バースの背景は怒りの炎が滾っており、このまま二人の語らいを続けていたらバースによる制裁が待っているだろう。
「バースちゃんのけちんぼ! いいじゃないー、ソフィーとアルバートはラブラブなんだもん」
「ラブラブなのは勝手だけど、今はそんなことしてる場合じゃないだろ」
 六人は来た道を戻ろうといつもよりやや歩く速度を抑え、後ろを向く。ゆっくりならジョニーとソフィーも歩けるようだが、いちいち一歩踏み出す度に喧嘩をしているようでは今後が不安だと残りの四人は感じ取っていた。
「だから一歩の歩幅が狭い! って……えっと、どこのどなた様?」
 ジョニーはソフィーと言い争いを一瞬忘れ、思わず呟く。
 六人の目の前には男が二人立っていた。一人は背が高く痩せており、もう一人は鍵っ鼻の小太りした男である。
 その男達はジョニー達の行動に関心を持っているのかその様子をずっと見ていたようだった。
 小太りの男は顎を掻き、
「どちら様って言われてもなぁ……俺達は」
「何、油売ってやがる。仕事は迅速かつ丁寧だと何度言えばわかるんでぃ!」
『あ、兄貴ぃ!』
 小太りとのっぽは草影からひょっこり現れた三人目の男を見て、同時に声をあげた。
「あ、なーんか嫌な予感がするんだよね、ボク。ほら顔つきからいってネェ……」
 突如、現れた三人の男達はお世辞にも人が良さそうな人相には見えず、以前、二度出会った野盗に近いといってもいい。
「ん? そいつらは……。何だ、ちゃんと獲物を見つけてたんじゃねーか」
「あ、やっぱその道の人達なんだ。凄いなぁ、ボク。当てちゃったよ」
「勿論っス、兄貴」
「そうとも! ずっと観察してました!」
 再び、小太りとのっぽは叫びだす。
「俺達は泣く子も笑い出す、怖ーい強盗集団!」
「奪った金品、道で落とし! 兄貴の失恋記録更新中!」
「そんな俺達に向かうところ敵な……いだっ!」
「てめぇら、勝手なことを言ってんじゃねーぞ。なに人様に俺の恋愛ばらしてやがる?  あぁん?」
『すいません、兄貴!』
「……馬鹿の集団」
 バースの呟きは正しい。皆、呆れかえった顔で強盗集団を見つめており、強盗集団は目の前にジョニー達がいることを忘れ、子分の説教中だ。
「行くぞ、皆の者」
「待て、待てぃ!  このまま俺達が大人しく見逃すと思っているのか?  お前等みたいな変な集団からなら楽勝に強盗ができるってもんよぉ」
「変!?  どこか変だって言うのさ!」
「……そんなにべったりくっついてる奴等のどこが普通だって?」
「くっ……強盗のくせに最もな正論を!  別にボク達だって好きでなったわけじゃないんだからね!」
 ジョニーの台詞に強盗達はそれぞれ驚いた表情を見せる。
「てっきり幼女趣味だと思ってた……」
「もしかして恋人なのかって本気で思ったぜ」
「同感っス、兄貴」
「特にあの黒髪と金髪なんて、一番……」
 そう呟くのっぽの頬に凄まじい速さで風が駆け抜ける。のっぽの頬は鋭利な刃物で切れたように、うっすら血が滲み、のっぽは自然とすくみ上がり高身長である背も心なしか小さく見える。
「……あと数センチだったね」
 爽やかな笑顔を浮かべるロアに強盗集団達だけでなく、ジョニー達も一瞬言葉をなくす。
「兄貴……今ので勝ち目が相当減ったのは俺の気のせいっスか……?」
「し、しっかりしろぃ! 海の男が微笑みの脅迫に脅えてる場合か!」
「俺達は生粋の山育ちっス」
 強盗集団は再びもめ出し、ジョニーはその光景を見ながら溜息交じりに
「あれを本気で相手する意味ってあると思うかい?」
 彼らのこの一連の流れは今までジョニー達が戦ってきた相手とはあまりにも温度差を感じ、正直な話、相手をすることが馬鹿馬鹿しいと思えてきた。
「ないと思うー。だってへんてこな人達なんだもん。ロアちゃんもそんなに相手することないって」
「別に元から本気で相手したつもりはないんだが……。けどその意見には賛成だね」
「俺のソフィー、言うことが一つも二つも違うな★ 俺はソフィーについていくぜ」
「ほんとぉ! アルバートがそう言ってくれるならソフィー、これからも頑張れちゃう」
「ん? 兄貴、でもあのバカップルだけならうまくいけそうですよ?」
「ば、バカップルですって!?  アルバートとソフィーの仲をバカって言うなんて許さないもん!」
 『バカップル』という言葉を真正面から捉え、怒り出したソフィーは魔法で自分の杖を呼び出す。最初、相手にしないと提案していたはずだが、このままいくと強盗達の接触は避けることは困難のようだ。
「うっしゃあ、野郎共。さっきのことは流して、仕事の始まりだ!」
「避けられぬか……仕方あるまい、渋々だが相手しよう」
 ケイは鎌を出すが、バースに抱えられている状態で振り回すことがでない。柄もできるだけ下のほうを持つのだが、刃のある先端部分に重力を感じ満足に振るえそうになかった。
「ケイ、武器は駄目だ。君達は魔法で応戦したほうがいい」
 ロアとアルバートは各自、剣を握る。
「やりにくいが今はこれでいこう」
「あぁ、そうだな。俺は利き手が使えるから問題ねぇだろ」
 ロアは頷き、地を駆けた……のだが、駆け出して僅か数秒後にロアは背後から腕を引かれ、思わず足を止めてしまう。
「ぜぇ……はぁ……足、速い!」
「……足の速さを忘れていたな」
「兄貴!  今の見ました?  まるで速く走る犬に追いつけない飼い主みたいでしたぜ?」
「こりゃ神に感謝だな……ありがとう、盗みの神様。面白い珍プレー、ありがとう」
 三人は勝手に拝みだし、その行動に今まで黙っていたバースは更に腹をたてる。
「風はこっちに吹いてるみたいだな。このアイテムでさっさと勝負を決めてやるぜ」
「流石、兄貴。頼れる兄貴っス!」
「おい、やめろよ。照れるじゃねーか。やい、そこの変な集団共!  このアイテムはめっちゃ恐ろしいやつなんだぜ?  それこそ使ったら、お前等なんかちょちょいのちょいって片付けられるぜ」
「俺達を脅すのか?  バカバカしいぜ!  このアルバート様が脅しに屈したりはしねぇ!」
「言ったな、金髪。兄貴!  その力をみしてやりましょう」
 おうよと、男は手にしたアイテムをジョニー達に向けて投げつける。
「そういえばさ……」
 アイテムが宙に浮かぶ中、小太りの男が隣にいるのっぽの男に向かって喋る。
「何だよ!  お前は間の悪い男だな!」
「いやぁ、あのアイテムってさっき拾ったやつだろう?  だから効果って何だろうなぁって」
 アイテムは地面に落ち、壊れる。
「……まぁなんかだろう?」
 ふざけるなと、誰がか叫ぶ。しかし時はすでに遅く、壊れたアイテムからは白い煙が出ていた。
「はーはっはっはっは!  これで年貢の納め時よぉ!」
刹那、




「全体的にお前等ウザイ」
 遂にキレたバースが炎で強盗集団を焼き、投げられたアイテムもうやむやのうちに焼かれるという悲惨な運命を遂げたのだった。


                                    ★


「っていう夢を見たんだ」
「……実に不思議な夢を見たな、お主」
 笑顔で話すジョニーを見て、ケイは飲みかけだった緑茶を一気に飲み干す。
「夢とはありえぬことが起るもの。だからそのようにおかしな夢を見たのであろう」
「でも見るならバースと結婚する夢が見たかったなぁ……」
「何か言ったか?」
「ううん! 何でも。じゃあ行こうか、今日は天気もいいし移動には最高だね」
 ジョニーはケイを連れ、仲間達が待つ広場まで向かう。
 夢というものは決して起らぬことを夢見ることもあるが、『正夢』という夢も存在する。
 これから約数時間後、ジョニーの夢は正夢となる――。



<後書き>
正直、これを一周年にしてよいのか悩みます、雨音です。
最初は「劇」ネタだったはずなんですが二転三転してこんなのに仕上がりました。テーマは「なんとなくさくっと読める」だったのですが、なんとなく過ぎた……!(爆)もう大変申し訳ない。気持ちよく馬鹿を書いてたらどこまでいっても馬鹿でした。このオリジナルの強盗集団なんてアホすぎた。
しかも夢オチかと思ったら、これ正夢かよ!みたいな。嫌だなぁ、これともう一回会うの(笑)ちょっと本編では馬鹿すぎてできなさそうでしたので、あえてここでやってみました。さりげなくケイがバースに姫抱っこされているのがポイントでしょうか?ヒロインですから!
一応、フリーなのでお持ち帰り・転載は自由ですが、そんな神のような人はいるんだろうか(汗)

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