夢を見て旅に出た。
 必ず夢は叶えられると信じて。
 だから何でも利用する決意をしていた。友達などという生ぬるい関係など必要ないと。
 人との繋がりなど不要の産物。
 所詮、誰も自分のことなんて分かるはずないのだと思っていたのに。


Fate
第1章 悲しみの果てに



 非常に暗く、人が住むには少し考えられないような場所に5人はいた。そして何かの攻撃を受けたのか石畳の所々が酷く損傷しており、そのような場でひっそりと会話を繰広げる五人は何か問題をかかえているようにも見えた。
「まぁ、こうなっちまったけど問題ねぇな」
 金髪の少年の軽い口調が響く。この場には似つかわしくない声のトーンだ。
「問題が無いとは一概に言えぬ気がするがな。我らはあの女とは違い、すぐに目覚める事ができたのが救いであろう」
 そしてこの幼女もこの場には向かない年頃であった。少年少女が集まり、語り合うには場所と時間が似合わない。
 何を好んで魔物がよく出ると言われる時間に廃墟にいるものか。
 魔物。
 それはこの世界にいる残虐な精神をもった生命体のことである。魔物に決まった姿はなく、獣・人等と形は様々だがすることは1つ、力なき者を襲うことだ。魔物は主に敵や弱い者を殺せばそれだけで満足することができる。ゆえに魔物は他の種族から狩られる立場となった。勿論、魔物もただ黙っている筈などなく、

 何度も戦いを繰り返し戦争という歴史を作り上げた。
 結果から言うと未だに決着はついていない。力ある者は魔物と戦い、逆に武器を持たぬ民は魔物を恐れ、魔物がよく出没すると言われる場所・深夜は出歩かないのが暗黙のルールとなった。しかしこの5人はそのルールをまったく無視し、むしろ魔物などにまったくの恐怖心すら感じていないようだ。
「救い? 甘いなケイ! このアルバート様がいるんだぞ! なんか女が本気で戦いを挑んできたみたいだが、これなら俺のほうが強いってことじゃねぇか。だって俺のほうが早く、目覚めてる」
「……馬鹿じゃないのお前。そんなどっちのほうが早く目覚めたとかで勝ち負け決めるなんてさ」
「なんだー?このアルバート様の優れっぷりに頭があがらないのか?」
「お前、殺してあげようか」
 銀髪の少年はアルバートの胸倉を掴もうと手を伸ばす。
「ストップ!! えーちょっと仲間割れ? やめてよー、ただでさえ、1人が5人になって大変なのにぃー」
「ソフィーの言うとおりだ。やめるんだバース、それにアルバートお前もだ。今は、色々言っている暇はない。今、私達がすべきことを明確にするべきだ」
 黒髪の青年がそう意見するとアルバート以外、「わかった」と静かに頷く。そしてアルバートはじっと黒髪の青年を睨みつけるだけで、特別大きな反応は示さない。明らかに不服そうな顔をしている。アルバートは黒髪の青年を気に入らないのか、今まで一度も彼の目を見ていない。
「1つの体が5個に分裂したのは間違いなくあの戦いのせいであり、そして5個に分かれたせいで力が落ちておる。
そうであろうロア?」
「あぁ、間違いないよ。確かに5個に分裂したことによって力が落ちてる。いや落ちたというより、1人の力が5人に分配されたというのが正しいかもしれない。あの戦いで私達は彼女と戦い、相討ちになりその影響で1人の人物が5つの人物になるという結果になったがさっきケイが言うように幸い私達は、5個に分裂してすぐに意識を取り戻すことができた。逆に彼女はまだ眠っているようだしね」
「好きにやるには今がチャンスっていうことだね」
「いや、そうもいかぬぞバース。まず、我らは振り分けられたせいで満足な力を得ていない。ここからはわらわの推測だが本来の力を取り戻すのには時間がかかるのではないか? 根本的に具体的な方法を知らぬ」
「確かに、そう考えるのが妥当かもしれないね。そうなると私達は自分達の考えた方法で力を取り戻すことが不可能になるね」
「はんっ。5人に分かれたらまた1人に戻ればいいだけの話しだろ!」
「そう楽に言うけど、どうやって戻るの? だって、5人に分かれちゃったことすらビックリなのに1人に簡単に戻れるのかなぁ?」
「それは……」
 アルバートは思わず口ごもった。アルバートもそうであるが、他の4人もまず本来の姿に戻ることを願っていた。
 それが時に身を任せねばならないという解決法しかないというのは一番の痛点としか言えない。
「私達の本来の姿はとりあえず置いておいて、むしろ次のほうが興味あるんじゃないのかい? 皆は」
「あぁ、あれでしょ。そう、オレ凄く気になってたんだよ」
 彼等の関心事、それは数多くいる魔王の徘徊。
 ほんのわずかな隙であろうか、力の無い魔物達が自分達を、一番偉い魔王だと勝手に語りだし、土地を好き勝手に破壊し続けているというのだ。本来、魔王はたった1人で魔物達を力でねじ伏せ従わせるのが当たり前である。魔王から言わせれば魔物はただの動く駒であり、戦争の際多くの魔物達を犠牲にしていった。その魔物達が勝手に名を語り堂々と世界を破壊しているとなるとこれは完全に冒涜としか言えなかった。
 魔王にとっては。
「本当にふてぶてしい奴等。だから沢山殺してもいいでしょ?」
「……あまり遊びすぎたらいけないよ。君があまり片付けすぎると私達の仕事がなくなる」
「へっ、お前なんかにできるのか? どっかの甘ちゃんじゃ魔物が怖くて倒せないだろ」
「アルバート、少し言いすぎだと自分で気付かないのかい? それ以上というと私もこのままではおかないよ」
「俺は別にいいんだぜ? なんなら今、試してみようぜロア。この俺様がボコボコにしてやるからよ」
「ふざけるなよ、ロアが殺る前にオレが殺ってあげようか?」
「バース、相手にするな。子供相手に私は本気にならないよ」
「何だとっ!!」
「もう、やめてよねぇ。こんなところで戦ったら埃がたって髪の毛が汚れちゃうでしょ〜。そんなことより早く行って倒しちゃおうよ、ねっ。ほら、一緒に行きましょうよ」
 喧嘩が非常に馬鹿馬鹿しかったのかソフィーはアルバートの腕に自分の腕を絡め、上目遣いでそっと見上げる。
「そんなこと!? ま、まぁしょうがねぇな。俺にばっちり任せろ、ソフィー。守ってやるし、沢山倒してやるからよ!」
「いやん、頼もしい。もうすっごく安心しちゃう。それじゃあ、皆バイバーイ」
「……てかあいつムカつく。ねぇ、あんなに言われっぱなしでいいわけ?」
 2人を見送り、先程のアルバートの態度に再びバースは怒りをあらわにする。
「私はあんな子供の言い分にいちいち怒ったりしないよ。それに彼を殺したら私達は元の姿に戻れないだろう」
「そうだね、しょうがないか」
「やはりお主は我らの中では一番の大人のようだな」
「そんなことないさ、別に当たり前の事を言っただけだよ。それじゃあ私達も移動しようか。あの2人にすべてをやらせるわけにもいかない」
「当たり前だよ。それじゃあまたね」
「暫しの別れだな」
「あぁ、またどこかで会えるといいな」
 5人は旅立った。
 魔王である彼等は自分の名を語る偽魔王を殺す旅に。そして本来の姿に戻ったらもう一度、世界の破滅を導こうと。


 こことは違う場所。
 そこでも1人の男が旅に出ようとしていた。男の目的は自らの性に逆らうこと。
 男が旅に出たのは5人が旅にでた半年後のことであり、決して交わることはないと思われていた。
 噛み合うとは思えなかった歯車。
 出会ってはいけない種族。
 魔王と人間。
 支配する者と支配されてしまう者。
 歯車がゆっくり音をたて噛み合う。
 その音は破滅への道なのかまたは別の音なのかその時はまだ知らない。


 そして時は男が旅に出る、半年後へうつる。



 男としての体、声が憎らしく恨みを覚えるのはきっと世界ではそうはいるまい。
 この男の名はジョニー。その数少ない、己の男という性別を嫌う者であった。
「けっ」
 全身鏡で自分の姿をまじまじと見、ぷいっとそっぽを向く。
 鏡自体は嫌いではない。むしろ鏡は好きだ。
 自分の美しい姿を映す鏡はジョニーとってなくてはならないものである。
 問題は男であることを再び、再認識してしまうこと。
「やっぱ女になるなら胸はそれなりにないとねぇ。うふ、女になって全員悩殺してやるんだから、そしてボクはこの世界になくてはいけない女優になるんだもんねえー」
 えへ、えへと笑うジョニーははっきり言って気持ち悪かった。そのせいか彼には幼少の頃から友と呼べる者はそういなかった。男の性を捨て、女の性に目覚めたのは10歳の頃。それから早くも22年の月日が流れている。
 当時、3つ違いの妹も病気で亡くし、今は両親と3人で住んでいた。ジョニーが女になると言った時、両親は特別に反対しなかった。逆に親はジョニーを応援した。
「ジョニー、決心したのか?」
 体格のいい父親……いや手術の結果、女の体を捨て男の体を手に入れた元母親が尋ねる。
「……母さん」
「父親だ! どこにこんな毛むくじゃらの母親がいる?」
「元母さん、今現在父さん。ボクは女になる為に外へ行ってきます。それで……」
 ジョニーは父親と母親に手を伸ばす。
 お金だ。
「さぁ、可愛い子供が外に行くんだ。もちろん、餞別くらい」
「何のことかしら、早く行きなさいジョニー。ほら、早く」
「嘘! 普通、お金くらいくれるもんじゃないのかい!!」
「男がグダグダ煩いぞ!」
「ボクは女になるんだ!」
「でも今は立派な男だろうが! ほら、さっさと行くんだ!」
 酷い仕打ちだとジョニーは思いながら、両親から追い出され外の世界へ足を踏み出した。そもそも最初から両親のお金に期待しておらず、どっかで楽にお金稼ぐなりして女の体を手に入れようとジョニーは考えていた。
「ふふふ……遂に、遂にこの時がきたぁ! ボクもこれで本当の女になって女優に……。むふふふ」
 周りに人がいなくてよかったと思う。今のジョニーは近寄りがたい雰囲気を醸し出し、関わりたくない人物と化していた。
「とはいってもまずどこから行こうか」
 自慢ではないがジョニーは、自分の住んでいる村から出ることがほとんどなかった。本当は早く村から出て行きたかったのがずるずるとやっているうちに時間がかかり今に至る。
「魔物出てきても嫌だしねぇ。早いとこどっかの街でも行ったほうがいいかな」
 街といえどここは山奥。街というよりあっても集落がいいところだ。もちろん、そんなことを知るはずのないジョニーは都会の街に憧れ、一人スキップをしながら山道を下っていった。
「ららららーん、らららーん。ボクの女優の道も近いって感じ? らぁあー、ボクはジョニーぃー。今世紀最大の、じょ……ゆぁぁぁあああああっ!!」
 女優という言葉を前にジョニーは、山道から足を踏み外し下に真っ逆さまに落ちていった。ふとこう思う。
 何でこんなにも早くボクは絶体絶命の危機を迎えているのだと。
 機嫌よく歌っていたというのに歌声が絶叫になるなど誰が想像したか。
 いやきっとするはずなどないのだとジョニーは強く思った。この絶世の美女になるであろう自分がこんな辺鄙な場所で道を踏み外し下に落ちるなんて。
 しかし、
 あぁ、もう死ぬかも。
 意外に諦めも早かった。


『それでは主演女優賞の発表です』
 多くの女優、俳優、監督達が固唾を呑みながら発表を待っていた。
『《浜辺のビーチで捕まえて》の主人公役クリスを演じた、ジョニー!』
 司会者の声が会場内にはっきり響き渡り、その後は惜しみもない拍手が包む。
 ジョニーはさも当然のようにその拍手と賛美の声を受け入れながら壇上に上がった。スポットライトが眩しく一瞬目をつぶるが再び目を見開き
『ありがとうございます、今回の賞はアタ……いえ私にとって最高の栄誉です!』
「やったわ! 賞よ!!」
 頭を上げた瞬間、
「気がついたかね」
「……は? 何、この爺さんは」
 パーティードレスとトロフィー、さっき自分の名を読み上げた司会者もいなければここは光輝く会場でもない。
 民家だ。しかも気付けば自分はその民家のベッドの中にいた。
「倒れていたんだよ、幸い酷い怪我もないようでよかったなお若いの」
「はぁ、まあそれはどうも」
 上手く要領を掴めず、とにかくベッドから出てみる。この家にいるのはこの初老一人だけであろうか。家自体は古いがよく細かいところまで掃除が行き届いている。
「しかしここは随分静かな場所のようで……。ここは街でしょう? それにしてはまったく喧騒なんてあったもんじゃない」
「そりゃそうでしょう。ここはそんなに栄えた土地でもないし、それに今ここには若い娘がいない」
「娘が? まさかここは若い世代厳禁とかっていう場所でもないだろうに。もしそうなら随分マニアックな場所じゃないか」
 もしそうなら『若い世代』とお世辞でも呼べないジョニーは即刻アウトだ。
「……まさか。実はここら一帯に住む野盗がこの町の金品、そして若い娘を攫っていったのだ」
「ほう、野盗がねぇ……」
 金品を巻き上げたというならその野盗はそれなりの金を溜め込んでいると読んでもいいだろう。
 ならそれを自分のものにしたらどうであろうか。何かと女になる為に費用がかかるのだ、うまくいけばその金がすべて自分のものになるかもしれない。それに生身の女性には一度会っておきたかった。
 女の参考資料として。
 二つのことを踏まえると、ある一つの答えが彼の中で導き出されてきた。
「ならその野盗、ボクがどうにかしましょうか?」
 目的は野盗からの金品強奪と女を見ることで、人助けなどというものは微塵もなかった。
「しかしお若いの」
「ボクには助けて貰った恩がある。それを今返すと言っているのです、気にしないで下さい。さてご老人、ボクに一着女性の服を貸してはいただけませんか?」

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