「待ちやがれっ!! まだ、決着は……うっ」
 ソフィーの支えでやっと立てる状態であったアルバートは、再び痛みが体の中を走り、脂汗が引かぬまま胸元を押さえる。
「アルバート!? 駄目よ、 まだ全部回復できてないもん……。あ、アルバート、ソフィーがもっとしっかりすればこんなに傷、背負わなかったよね……? ソフィーが甘かったから……」
 ソフィーは今にも泣き出しそうにアルバートを見る。体が震え、泣くのを必死で堪えている。
「ソフィー、俺はソフィーを守れたことを後悔してないぜ? ソフィーを守るのは俺の役目なんだからな、だから気にすんなって。……そうだ、俺は全員を守れなかった。もっと俺が皆を守れていたらどうなっていたか……」
 負けることはないのではないのだろうかと、アルバートは感じていた。周りを見回すと、無傷に近いのはソフィー、ケイ、ロアの三人くらいであり、残りは体に必ずどこか痛みを持っている。
「バース、すぐに額の傷を治そう。……その、大丈夫かい?」
「……あぁ、オレは平気。でも次は必ずあいつを死なすよ。絶対に生かしはしないから」
「ジョニー。先程のことは礼を言う。すまなかったな……」
「ケイ。うん、ボクは……」
 二の句を継ごうと口を開こうとするが、視界がぼやけてくる。
 近くにいるケイの顔が波うつようにぼやけ、周りの仲間はもはや背景と同色になっていた。
「ジョニー!? しっかりせい! ジョニー!!」
「……どうやら気を失ったみたいだね。まぁ直撃を受けたのだから気を失う理由もわかるが」
「でも何故ジョニーはわらわを……あんなに怯えていた筈なのに」
 ケイ自身をあまりよく思っていないジョニーがこのような行動にでるのは意外であるとしか言いようがない。初めての強敵に恐怖を覚えていたジョニーがどうして、庇うことができたのかやはり理解することはできなかった。
「すぐ逃げると思ったのに。所詮人間なんてそんな奴ばっかだって思ってたのに」
 人間に対し、あまり信頼していないバースが呟く。ジョニーとの交流も浅いせいだろう、あまり倒れたことを重要と感じていないようだ。
「人間か……そう一筋縄には解明はできそうにないね。とにかく彼をどうにかしないといけないよ。どこか休める場所に連れて行って、看病なりしないといけなさそうだね」
「ではその役はわらわに任せてはくれぬか? わらわにはジョニーを看病する理由がある。皆は休んでいてくれて構わぬ」
「そう。じゃあよろしく」
 バースはあっさりそう答えると、どこか休める場所を探しに周りを離れる。アルバートとソフィーもバース同様に、多少のおふざけもありつつも探そうと足を踏み出している。
「人間……わらわにはわからぬ。人間とは一体どのような存在なのだ? ジョニーよ」
 倒れているジョニーにそう問いかけても何も答えはしなかった。
 ただ、そう聞いてみたかったのだ。
 それは自分を納得させる為であるのか……ケイはわからないままでいた。


 それからジョニーを近くの小屋に運んだのは約一時間後であろうか。
 ケイは一人、ジョニーの部屋にこもったまま彼の傍を離れようとはしなかった。一方、仲間達もそれぞれの時間を過ごしていた。
 だがその心境は決して穏やかなものではなく、天雷に負けたという屈辱で心が埋まっている。
 故にふらりと外に出て行き、この気持ちを発散させようと近くと魔物と交戦する者や、自分の力を高めようと修行する者など三者三様である。
 ケイはジョニーに視線を落とすと、彼の睫が微かに動いたことに気付く。どうやら意識は戻ったようだ。
「……目が覚めたのかジョニー」
「やぁ、ケイ。あれ、どうしてボクは……」
「お主は倒れた。それで近くの小屋に運んだ。皆は……外に出ている」
「そう。……ケイ、もしかしてずっといてくれたのかい?」
 ケイは頷き、そしてジョニーはいつまでも寝るわけにもいかないだろうと、体をゆっくりと起こしてみる。
 不思議と体の痛みはなく、きっと誰かが回復をかけてくれたに違いないと心の中で思う。
「あれはわらわの責任だ。用心棒になると言ったくせに何もできなかった。すまぬジョニー」
 静かに頭を下げ、謝るケイに何故かジョニーは一瞬どきっとした。
「えっ、えっ!? 何頭下げてるの!! ケイがボクに? まっさかー嘘だろう。ねぇ、ケイ頼むから早く頭上げてよ。何か凄く落ち着かないんだって」
「不思議なことを言う。何故、落ち着かないのだ? 別にお主は何もしてはおらぬだろう。
むしろわらわに問題があった」
「えっとさー、何ていうかケイがボクに謝るのが似合わないんだって。ケイはボクに、行くぞジョニー! 早くあの者を倒すぞ! とかそんな風に叱咤するほうが合ってるかなぁって……」
 うまく言えずに、ジョニーは言葉を濁しながら言い続ける。
 ケイに謝られた瞬間、ジョニーの中で感じたのは違和感であり、その違和感を拭うには何としてでもケイにこれ以上の謝罪はさせないことであった。
 しかしケイの謝る理由も最もだ。だから謝られて当然だと言える。
 だがジョニーにとってそれはこそばゆく聞こえ、これ以上は堪えられなかった。
「……わからぬ。本当にわからぬ。ジョニー、お主はわからぬ男だ」
「そうか……」
 ジョニーは僅かなケイの表情の変化に気付き、言葉を失った。
 一瞬だけであったが、ケイが自分に向って笑みを浮かべていたのである。
 不覚にもジョニーの心拍数は上がっている。それをケイに悟られない為にもジョニーはすぐに話をかえなければいけなかった。
「どうした、ジョニー」
「い、いや。なんでもないさ、でだ! これからどうするって皆は決めたのかい?」
「うむ、それだが……」
 ケイは今までの経緯をジョニーに簡潔に話しだす。
 このまま天雷をほっておいて旅をするのは不可能であること。
天雷を倒してから先に進むために、修行をする必要があるということ。
「……また戦うんだ、アレと」
「無論。あのままにするわけにはいかぬ。それは皆が思っていること、各自が修行を行って再び天雷に戦いを挑むことになっている。では我らもさっそく修行を……」
 その時、外で皆を呼ぶロアの声が聞こえる。
 どうやら召集をかけるつもりのようである。珍しく声をあげて呼ぶロアに、ジョニーとケイは互いの顔を見比べ、何があったのだろうという表情を浮かべる。
 そして二人がロアの元に来た時はすでに残りの三人も集まっており、皆が揃うとロアは口を開き
「ジョニー、目を覚ましたんだね。さっそくだが、今回の修行で少し違和感を覚えたんだ。皆は個々の能力をあげることに囚われ過ぎてはいないかと。だからここで一つ提案があるんだが」


 ロアの提案に難色を示す者が多数。
「嫌。絶対、ブリ娘と協力なんてそれだけはボクはお断りだね」
「こっちだってオカマちゃんと協力なんてできないもん。オカマちゃんのキツイ香水の匂いがうつっちゃうもん」
「ふふ……ふははっはは! ついにロアも俺の凄さを知って……アルバート様、どうか私にお力をお貸し下さいませということだな? 俺を中心に技をやればかんぺ……」
「お前、ウザイ。何一人で勘違いしてんの? バカだろお前。あ、オレはその提案反対。いや百歩譲って協力技はいいとするけど、このバカ達とは一緒にできないから」
「……やはりこうなるか」
 この案が頭の中に浮かんだ際、すんなり通るとは思ってもみなかった。
 協力して敵を倒すなど、繋がりの薄い彼らでは難しい話である。
 今は何とか六人で旅をしているが、本当は皆が糸の切れた凧のようなもので、いつ分裂してもおかしくないほどの絆の無さのせいであるからだ。
 その絆のかけらすらない彼らは協力して、敵を倒すなどという選択肢はなく、むしろ個人が力をあげ、個人の力で倒すという方法しか彼らの中には存在していなかった。
「しかし反論されるとわかっていて、協力を持ちかけるとは何か具体策でもあるのか?」
 六人のなかでは、賛成という貴重な意見を持つケイはロアに問いかける。
「恐らく天雷に少しずつダメージを与えて、スタミナ切れを待つような長期戦は私達のはむかないと思う。だから大きなダメージを与え……つまり大きなダメージとは魔法のことをさすんだが、それを決定打にする戦法がいいと思うんだ」
「一撃必殺か……。確かに魔法のほうが大きな威力を発揮することができよう。我らにはソフィーがいる、ソフィーが要となれば容易いこと。だが、魔法の詠唱中はどうする? その間、隙ができてがら空きになるぞ」
「そこで二人を天雷と直接戦わせ、ひきつける。そして残りの四人がその間に唱えるんだ」
「ほう、先制攻撃を仕掛けるか。そして詠唱が完了したら、二人は上手く天雷から身を引けばよいのだな? ではその役、わらわが引き受けよう。わらわは先の戦いで何もできなかった。このまま一太刀も浴びせることなく終わるのは許せぬ」
「そうか、君ならそう言うと思ったよ。ならケイに任せよう。そして残りのもう一人はジョニーが適任だと私は思うんだ」
「はぁっ!?」
 ジョニーは慌ててロアの顔を見る。
「ちょっとロア! ボクはその提案に賛成なんてしてない! ケイとロアはしてるかもしれないけど、ボク達四人は反対だって!」
 四人というのはジョニー、アルバート、ソフィー、バースのことであるがアルバートは
「あ? 俺は別に反対なんかしてないぜ。俺が中心で輝けるなら何でもいいぜ」
 と、個人的な主張で一応賛成という意見を持っている。
「お前がよくても周りが嫌なんだよ」
「このバースの照れ屋さんが♪」
「殺す」
「いい加減にしろ。今の状況を君達は知っているのか? もし個人だけの力でどうにかなるのであれば、こんなことは言わない。……元々協力することに欠けているメンバーであるのだから。それでも私はあえて、協力という案を出した。理由は簡単だ、もう二度と天雷に負けないためにはこうするのが一番得策であると理解したからだ。頼む、わかってくれ」
 これが冷静に判断したロアの結果である。ジョニーが倒れてから何度も、頭の中で策を練ってみても個人の力だけで天雷に勝つのが不可能という解答しかでてこない。
「……わかったよ。そこまでロアが言うなら、協力してあげてもいいよ」
 バースが観念したように呟くと、残りの二人も同様に
「ん〜もう、ロアちゃんの案にソフィーも協力してあげるよ。だってソフィーも絶対に負けたくないもん。それに協力って魔法なんだよね? だったらこの可愛いソフィーちゃんにお任せ★魔法は得意だもん」
「……このブリ娘はまた。あー! 好きにしていいってば!! こうなったら乗りかかった船だ、ボクも協力するってば」
 そうでもしなければきっと先には進めない。先に進むためにもジョニーにはこの提案に賛成を唱えたのだった。


「さっきアルバートが修行に割ってた薪を、天雷と考えればいいんだよね?」
「それでわらわとお主があの付近に待機。本来は動くものを使いたいが仕方ない。それで残りの四人はあの薪に向けて魔法を放つのだな」
「そうそう★うふっ、ここはソフィーの腕の見せ所だぞぉー」
「あっそう。ほら、無駄口叩いてないでやるよ」
 バースに促され、ジョニーとケイは薪よりやや離れた位置に立つ。
 天雷との間合いの距離である。
「じゃあソフィーが説明するよ? バースちゃんは火の魔法、ロアちゃんは風の魔法、アルバートは光の魔法、そしてソフィーは土の魔法を使ってあの薪にどかーんとぶつけるの。四つの属性をタイミングよく、ぶつけなきゃ意味がないの。つまりソフィーの土がもこもこって地面をいってぇ、ロアちゃんとバースちゃんの魔法がひとつになってどーんと当たってぇ、それで最後にアルバートの光が上から薪に向って降り注ぐんだよ★ね、簡単でしょ?」
「ケイ……ブリ娘の語尾ののばしと、妙な擬音語がむかつくんだけど……。あと、アルバートって光魔法使えるの!? 初耳だよボク」
「魔力はそうはないが、一応光の属性を持っておる。以前、アルバートと初めて会った時に使ったのが、
お主はソフィーしか見ていなかったら知らぬだろうな」
 アルバートが以前使った、『アルバート・フラッシュ』は光魔法を使用しているのだが、如何せん目が眩んでいるうちに斬るという卑怯さが目立ち、光魔法を使っているというのが薄れてしまう。
 ジョニー達が呑気に会話をしているうちに、後方の四人はソフィーの指示の元、それぞれの属性の魔法を唱え始めている。
「始まったね。……あのさ、やっぱり動かないものを相手にするって暇だよね」
「仕方ないであろう、なかったのだから。それに、実際にいるように想定すれば自ずと見える」
 ジョニーはじっと薪を見つめるが、何度みても薪は薪。天雷の姿にはまったく見えない。
「みんな、準備はいい? いってくよー!」
 成功したのであれば、ソフィーの土魔法が大地を盛り上げ、ロアの風とバースの炎が混ざり合い
一 つの力となって薪へ向い、アルバートの光魔法が降り注ぐ光線の如く薪に一直線に落ちる筈であった。
 そう、そうなる筈だった。
 魔法が放たれたと同時に、ジョニーとケイは薪から離れる。勿論、魔法の餌食にならない為であった。
ここで魔法の餌食になろうものなら、天雷戦の参戦は不可能になる。
「……あっ」
 誰が呟いたであろうか、避難したジョニーとケイの背後には何故か盛り上がった大地。ソフィーの魔法は
薪にたどり着く前に二つに分かれ、それぞれ散って分かれたジョニーとケイに襲い掛かっていた。
「ちょ……う、わぁぁぁっ!!」
 予想しなかった出来事に二人はぎりぎり直撃を受けることは避けたものの、盛り上がった大地に巻き込まれ二人の体は軽く宙に吹っ飛んでいた。
「ええええ――!? 嘘、嘘ぉっ!!」
 ソフィーが叫ぶ中、更に二人の受難は続く。
 ロアの風とバースの炎は融合するタイミングを外し、二つの魔法はうまくぶつからずにクロスし風はジョニーに炎はケイに当たってしまう。
「つっ!! 火が!」
 地面に着地するなり、ケイはわき目も振らず水場に走っていたのは安易に想像がつくだろう。
 最後のアルバートの光はというと、光線として薪に落ちずにスポットライトとしてアルバートを照らし続けた。
「あはは……やっぱ俺を輝きだすんだな」
 アルバートの馬鹿な呟きに、お約束のバースの蹴り。
 いくら絆の薄いメンバーとはいえ、この有様ではどうしようもないとケイは水場に向けて走りながらそう思っていた。


 だから六人は何度も失敗し続けた。……六人というより後方の四人が失敗をし続けその度に前に立っているジョニーとケイは、何度も魔法の被害にあっているという不平等さである。
「これじゃ天雷戦の前にアタイ達が倒れちゃうわよ!!」
 土・風・炎を何度もくらい続けていた二人にとっては、天雷の雷よりも仲間の魔法で倒されてしまうのではないかという悲しい予想をしてしまう。
 そう思えるほど、四人の魔法の失敗が酷かった。
 ソフィーの魔法が何度やっても、薪まで届かずに曲がってしまう。ロアとバースは魔法の融合が一度もできず、違う場所にいってしまう。そしてアルバートは、光線を降り注ぐにも至らずただ自分を照らすのみ。皆の思い描く、『協力技』とは程遠い。
「……同感だ。流石に何度も魔法を当てられると身が持たぬ。もう少し狙ってはくれぬか?」
「ソフィー、ちゃんとやってるもーん!」
「そう言いながら、薪にたどり着く前に方向が曲がっておるぞ」
「このヘタクソ」
 ぼそっと呟いたバースの声を、ソフィーは聞き逃さなかった。キッとバースを睨み
「あんなヒョロヒョロした炎しか出せないバースちゃんに言われたくないもーん」
「はぁ!? それオレに喧嘩売ってるわけ?」
「二人とも、そんな言い合いを……」
「ここは俺の出番だぜ!! この俺がばっちりかっちり丸く収めてやるからよ★安心しろって、ソフィー、バース!」
「またそんなこと言っちゃってー。四人の中で一番役立たずなのはアルバートじゃないか……」
「なっ! 聞こえたぞジョニー!! 俺のどこが役立たずだって!?」
「お主は自分に光を降り注いでいるだけであろう!」
 火種はどんどん周りに飛び散り、気がつくと互いが互いを責める状況ができあがっていた。
「皆、今はそんな争っている場合ではないだろう!」
『煩い! ロアは黙ってろ!!』
 口調は違えども、五人の言いたいことはこの一言であった。
流石のロアもこれには腹を立てたらしく
「……なら勝手にすればいい」
 ぼそりと言うと、彼は争いの輪から離れ近くの木の下に腰を降ろす。どうやらこの喧嘩を遠巻きから見る気でいるようである。数分もたってくると五人の言い争いは激しくなり、ついに言い争いだけでは済まされなくなってきている。
 その状況を見続け、先程までの怒りを忘れロアは焦りの表情をみせる。実は怒りに身を忘れたことを悔やんでいたが、今ここで別の問題が発生し悔やんでいる暇ではなくなった。
「……このままだとまずい」
 ジョニーはともかく、他の四人が本気になったら色々と都合が悪い。
 分裂したとはいえ、彼らは魔王である。魔王が本気になったりしたらこの辺り一帯は、草木が生えなくなるだろう。
それにジョニーの命も危うくなる。
 それでは今までしてきたことは水の泡となり、計画は総崩れだ。
 ロアは急いで争いの中に入り込み
「もうよしたほうがいい。意味、わかるね?」
 やや殺気の混ざった瞳を向けると、四人はロアの言う意味を理解し、動きが止まる。
「ジョニー、魔法の失敗は私にも責任がある。今、こうして皆が言い争いをして何の意味があるんだい? 
私達は協力をしなければいけないんだよ、絆を強くするなんてそんな夢見がちなことを言う気はないが、でも少しでも私達が変わるのであればその為に努力をしてみてもいいのではないのかい? ソフィーの魔法に対する潜在能力はこの中で一番だ。その彼女はまだ一度も、今回の魔法は不可能だとははっきり言っていない。ソフィー、聞かせてほしい。もしかしてこの協力技は失敗だろうか? 私達では魔法を融合するのは無理かい? もしそうであればこの策を変えなければならない」
 ソフィーは少し考え込むと、ふと真面目な表情を浮かべ
「……無理じゃないよ。だって無理だったらソフィー、どんな風に言われても最初から協力しないもん。
うん、できるよ。ソフィー達、できちゃうんだから」
「……ブリ娘が、普段しない真面目な顔をしてるから似合わない、似合わない」
「あ、オカマちゃんなにそれー」
「でも、信じてあげるよ……その協力した魔法ってやつを。こんな真面目な話をしちゃったら、喧嘩がバカバカしくなったじゃないか。ほらまとめ役のロアが、もっと早く喧嘩を止めればいいんだ」
「私のせいかい!? 酷いことを言うなぁ……」
「ちょっと待った! リーダーはこの俺だ!!」
「そのリーダーとやらが喧嘩に参加してたくせに」
「あー、また堂々巡りになるだろう。もう一度気を取り直して、やってみよう」
「承知。……天雷とて待ちはしないだろう。早急にこの技を完成させねばなるまい」
 脳裏には天雷の姿が映し出される。天雷は恐らく六人の前にもう一度姿を現すであろう。
それが最初で最後のチャンスとなる。
 そのチャンスを逃さない為にも六人には、この技を必ず完成させなければいけないという強い思いが
今初めて生まれたのだった。


 予想通り、天雷は再び六人の前に姿を現した。
 天雷が六人を黙って生かす筈などないという、元魔王であった五人の思惑である。五人は天雷という存在をよく知っていた。天雷は四天王の中では一番弱く、頭もさほどよくない。戦うことだけを楽しみ、弱者を殺すのを生きがいとしていた。
 そう五人は天雷を見ている。そして天雷の属性は「光」。同じ属性を持ち、天雷よりも遥かに上の地位を持つアルバートにとって、必ず生かしてはおけない相手でもあった。
「懲りずにまたきたか。今度は殺してやっから覚悟しやがれ」
「はっ。次はそうはいかねぇんじゃねぇか? 俺達だってそう馬鹿じゃない、勝つ方法くらい考えてんだよ。
……絶対負けない。天雷、お前はこのアルバート様が倒す」
「粋がるな」
「行くぞ、ジョニー!」
「わかってる」
「……ん? なんだ二人だけが俺様の相手か。粋がってた小僧はいそいそと後ろに逃げやがって、俺様と戦うんだろ? あぁん?」
「天雷よ。我らでは相手にならぬというか? 今度はそうやすやすとはいかせぬ、我らを倒してから後ろに行くがよい」
「そうさ、実はボク達が怖いんじゃないのかい? やだねぇ、四天王のくせに怖がりなんて」
 これが天雷の何かを切れさせた。天雷はアルバートよりもジョニーとケイを壊したいという激しい衝動に駆られる。
 天雷の両手から光が生まれ、明らかに二人を狙っている。その光を見て、二人の口元が緩む。
 作戦だった。天雷が四人に向ってこないための作戦である。
「いいぜ、そういうならお前ら二人から殺してやるっ!!」
「注意してかかれ、ジョニー。今度は前みたいにいかぬぞ!」
「そんなのわかってる!」
 二人の激しい攻防が始まる。一方、後方の四人は精神を集中させゆっくり呪文を唱え始める。
 事前にソフィーに言われたことは、呪文の際は何が何でも集中することであった。
 特にアルバートは強く、念を押されている。つまりこの中で一番魔法に不慣れで、かつ魔力の乏しい彼が失敗しないためにその言葉をソフィーからわざわざ言い与えられたのだ。
 本来なら言わずとも予想するくらいはできる。しかしアルバートの心境は他に比べると思ったより不安定で、そんな言わずとも予想できることにすら頭が回っていない。
 その原因は天雷に負けたという事実が重くのしかかっていることをさし、一見普段のように明るく見えても心の中では深く、怒りの炎を燃やしているに違いない。
 アルバートの魔王としての性が、天雷という存在を許していなかった。
――天雷は必ず、俺が消してやる。
 そう彼が修行の終わりに静かに呟いたことを、ソフィーは知っていた。
 だからソフィーはアルバートに、与えられるだけのアドバイスを与えていた。彼が目的を達成する為に。
それが喜ばれることだと知っていたから。
「はっ! ボクのムチの締め付けはどうだい!? ムチ使いならこれくらいできないとね!」
 前線ではジョニーは天雷の体をムチで拘束している。だが天雷のほうが全体的に腕力は格段に上で、
ムチによる締め付けもだんだん弱くなっていることを、ジョニー自身感じていた。
「甘い、甘い……力で俺様に勝てるかよ!!」
「甘いのは天雷、お前だ」
 天雷の後ろでケイの声が聞こえる。同時に鎌の刃が美しく光る。
「……わらわの鎌はどうだ? 天雷」
 ケイの鎌が天雷の背を捉え、天雷の背を裂いていた。
 鎌の血を軽く拭い払うケイの姿は、どこか美しさを感じた。

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