幽霞の発言にジョニーよりも、ケイ達五人のほうが驚愕したに違いない。
「魔王になるだって! つまり四天王が裏切るということなのかい?」
「えぇ、そうですわ。魔王さまは先の戦争で消えましたから。もう従う必要もありません、だからわたくしたちが新たな魔王になるんです」
「あの弱い魔王なんかとは違う魔王にあたしたちはなってみせるわ。……役立たずな『マオウサマ』とは違う、本来あるべき姿の魔王になるのよ」
 それは本で読むような物語のようだった。四天王である天雷との戦いで勝利を収めたこと事態が、物語のようであった。
 それが今目の前に残りの四天王がいて、魔王を裏切り新たな魔王として君臨するという。色々と気なる点は多いが、ジョニーにはそれを解明するほどの精神力は持ち合わせていない。四天王が揃ったことで彼の頭の中ではパニックを起こしているからだ。
「そんな、ことが……」
「あるのよ。あたしたちは馬鹿な人間のように、生まれや血でどうのってもんじゃないから。ようは実力なのよ、力の無い者は死ぬしかないの。だからあの魔王は死んだ。神と相討ちですって? あたしたちに『相打ち』なんて認めれられない。勝つか死ぬかなのよ。……もういいでしょう? 馬鹿な人間と話すのって疲れるのよね、本当だったらこの場で殺してあげたいけど天雷に勝ったご褒美で見逃してあげる」
「見逃す?」
 バースはじっと先程から幽霞を睨みつけている。彼は彼女を逃がす気が毛頭ないのか、今すぐにでも飛び掛れそうな勢いであった。
「このあたしと本気でやるの? 天雷相手に六人がかりっていったくせにこのあたしとやろうだなんて、あんた相当の馬鹿でしょ?」
 幽霞は明らかにただの人間としてバースを見下している。幽霞自身、プライドが高いのか『人間』という弱き生き物はゴミ同然に扱っているようにも思えた。
 だが、もし幽霞がバース達を魔王であると気付いてもきっとこの態度を変えることはなかっただろう。
邪魔者は何であろうと排除する、それが魔王や四天王の共通した理念であるからだ。
 それに彼女達は新たな魔王になると完全布告をした形になる。今更前言撤回するとは思えない。
「バース、待て。今の我らでは……」
「ケイは黙ってよ。幽霞に言われてオレが大人しくしてると思うの?」
 もう一人の自分、作られた存在である幽霞に馬鹿呼ばわりされてそのまま黙って帰すほどバースは大人ではない。
 彼の中にある誇りが決して許しはしなかった。
 恐らく誇りの高さは、他の四人の中で一番だろう。
「オレが相手になってあげるよ、ここで死なす」
「ならあたしの炎で焼き尽くしてあげるわ、ボーヤ」
 二人の戦いが始まる瞬間、
「バース! もう止めるんだ」
「幽霞殿、止めにしませんか?」
 邪鵠とロアがそれぞれ二人に割り込む。止められた二人は同じような表情で相手を睨みながら、
「どういうつもり邪鵠。あたしの楽しみの邪魔しないでくれる」
「ロア、止めないでよ。オレはアレを殺すんだから」
 戦いを邪魔されて二人はあまりいい気分ではないようだ。だが邪鵠とロアはそれぞれ説得し、
「幽霞殿。我々の目的は今そこにいる人間を殺すことではないはずでは? 幸いそちらの人間の中にも、この状況を冷静に判断できる者がいるみたいだが……我々に勝てないと知っているから止めたのだろう?」
「……今の私達では無理だろう。でも私達の目的は、『魔王』と名乗る者をすべて倒すこと。
だから四天王全員を倒すよ、必ずね」
 はっきりと三人に向けて言い返す。それが魔王である彼らの出した答えであった。勿論、表向きは偽魔王を倒すということになるが、実際は謀反を起こした三人に制裁を加えるということだ。
「まぁ、それは楽しみですわ。ではまた貴方達と出会うということですわね? ならその日を楽しみにしてわたくしたちも参りましょうか」
「……たく、わかったわよ。命拾いしたことを喜ぶことね、ボーヤ。そして馬鹿な人間達」
 四天王が去っていくところを六人は黙って見送ることしかできなかった。ジョニーは隣に立つケイの横顔を盗み見ると、ケイは複雑な表情で四天王を見続けていた。
「どうして、どうして逃がしたのさっ! あいつ等も魔王になるなら倒す対象だろ! それなのに黙って行かせて何考えてるんだよ!」
「さっきの戦いで君は気がつかなかったのかい? 天雷相手に六人だったんだよ、残りの三人は天雷よりも強い、その相手に一人で戦いを挑もうなんて無茶だ」
「無茶じゃない! オレは勝てる! 勝てないとおかしいっ!」
「ちょっとバース、落ち着きなって。何でそんなに騒いで……」
「……ジョニーの言うとおりだぞ、バース。今の我らではあやつ等には勝てぬ。今の我らではな」
「なにさ、皆して負け犬にでもなるつもり? オレは嫌だ、そんなの絶対に認めない」
 バースは完全にジョニーが前にいることを忘れ、魔王の立場としてわめき散らしている。ジョニーにはただ単にバースが負けず嫌いで叫んでいるとしか思っていないようだが、いつバースが本音を言ってしまうか、
残りの五人はそれが気掛かりで仕方なかった。
「バース、もうマジでやめとけって」
「そうだよ、バースちゃん。今はソフィー達もボロボロ……」
「うるさい! お前らには関係ない。オレは絶対に許さない、あんな風に見下されていい気なんてするわけない。
だって幽霞は……」
 乾いた音が辺りに響く。
 一瞬何があったのか、周りはわからずにいた。バースはとっさに痛みのある頬を押さえ、その彼の前にはロアが立っている。
「いい加減にしなさい。これ以上、私達の輪を乱してはいけない。君の軽率な行動がパーティー全員に響くんだ。少しは反省しなさい」
「な、なにそれ……何で叩くんだよ。信じられない、ロアなんて信じられない。この腑抜けが! こんな腑抜けなんてオレは知らない!」
 バースは一人、場を去ろうと歩き出してしまう。周りは困惑の表情を浮かべ、ロアはバースを叩いた手をじっと見ていた。
 悲しそうに手を見つめ、殴ったことを後悔するような瞳で。
「バースちゃん! ねぇ、バースちゃん!」
「ば、バース! ちょっといいのかい? あんなこと言っちゃって……」
「仕方ないよ。彼には少し頭を冷やして貰わないと私達が困るのだから」
 拳を握り締め、ロアは自分に言い聞かせるように呟いた。


 それからのバースは誰も近づかせないオーラを放ち続けていた。
 というのもロアに頬を叩かれて以来、常に殺気だって生活をしているからである。そんな彼のストレス解消法が魔物倒しなのだが、その魔物には歯ごたえがない。簡単に死んでしまう魔物との戦いがつまらなくて仕方なかった。
 こうして解消されないストレスは次第に怒りとなり、バースに積もり積もっていく。四天王の裏切りこそが一番の怒りだと思われるのだが、仲間に叱られたことも彼にとっては怒りの引き金となったらしい。
 四天王という部下に裏切られたという落胆よりも、自分達の座を引きずり落とそうとする思考がバースには許せなかった。その気持ちを他の四人なら必ずわかってくれるだろうと思っていたのだが、返ってきた言葉は彼の予想とは反対の言葉……
『今の自分達では勝てない』
 ということ。今勝てないのであれば、今後勝てる見込みはあるということだが、それがバースには信じられず、いやそのことを考えたくはなかった。
 バースは一人、魔物を倒す日々に明け暮れていた。苛立ちを少しでもなくすように魔物の死骸を築きあげていきながら。
 気がついたら周りには多くの魔物の死体と、おびただしい血の匂い。彼は返り血には濡れなかったものの、体には嫌でも血の匂いが染み付いていた。そのことにジョニーは気付かなかったみたいが、察しのいいケイとロアにはバースが帰ってくるなり、
『バース、匂いがきつすぎるぞ』
『すぐに落としておいで。そんなに血の匂いをつけていたら不信がる』
 そう彼に言う。バースは特にロアに対して、何の反応を示しはしなかったがこの匂いがいつまでも残るのが不快だったのでバースは匂いを落とそうと風呂場へ足を運ぶ。
 魔物を倒して風呂場に行く。
 それがバースの日常だった。
 そして、この日も魔物を倒しに行こうとバースは宿屋を出て行こうとするのだが
この日だけはいつもと状況が違っていた。
 宿屋を出て、バースは自分をつける人物の気配を察し、立ち止まる。
「……バレバレなんだよ。何か用?」
「なんだぁ、バレちゃってるのかい? そりゃー、バースに独占インタビューしに来たのさ」
 ジョニーの手にはメモ帳とペン。インタビューというのは口からのでまかせではないようだ。ジョニーには女になるという夢がある。その夢のために理想としているのがバースなのだが、男のバースとしては女の参考にされてもあまりいい気がしない。
 今まで何度かバースにインタビューをして、冷たくあしらわれてもジョニーは決して諦めなかった。
 それだけ『女』というものに強い思いを抱いているのか、バースを観察することは日常茶飯事だ。
「この頃、一人でどこか行ってるでしょ? これは何か秘密が、とね」
「別に何もしてない。オレの邪魔しないでよ」
「だーめ。ボクは諦めが悪いんだ、絶対に今日は密着取材させてもらうから★ それでどうやったらそんなにクールビューティーになれるんだい?」
「あのさ、いつも思うんだけどオレはジョニーの言う意味がわかんない。何でオレを目指そうとするの? 一体、何なんだよ」
 後をついてくるジョニーを振り切ろうと思えば十分できるのだが、バースはあえて振り切ろうとせずに大人しく後を歩かせている。
 それはバースの気まぐれだった。人間に興味のないバースが自分からジョニーに関わりを持とうとするところが気まぐれ以外のなにものでもない。
 二人は市街地を離れ、魔物がいる場所へと向う。
「ねぇ、ここって魔物出るんじゃないの?」
「そうだよ。だって倒す為に来てるんだから」
「えっ! まさかずっと一人で魔物を倒してるのかい……?」
「いけない? 別にオレ一人でも魔物くらいすぐに倒せるし」
「いや……別にいけないというかねぇ。バース、君は凄くイライラしてるからそうやってストレス解消をしてたのかい?」
 ちらりとジョニーの顔を見る。ただ自分のやりたいようにやっているという評価を下していたバースにとって、ジョニーが自分の行動にある程度考えていたことに驚いてしまう。
「だってあの日以来、凄く機嫌悪いもん。たまに眉間に皺寄っちゃってさ……折角のバースの綺麗な顔が台無しだよ。……バース、もしかして拗ねてる?」
「はぁ? 何言ってるのさ、オレがどうして拗ねてるのさ」
「だってその態度。ロアに怒られて拗ねてる気がしたんだよね、ボクには」
「違う! オレはあいつ等に馬鹿にされてむかついて、ロアは腑抜けなことしか言わないからそれでむかついてるんだよ! 拗ねてるってオレは子供じゃない!」
「そうかなぁ? ボクには子供に見えるけどねぇ。ただあの四天王に対してボクはよくわからないよ、多分バースって凄く負けず嫌いなんだなぁってボクは思ってるくらいだし。でもロアに対しての態度は苛立ちっていうより拗ねてる。ロアに本当のこと言われて嫌だったんじゃないのかい? 四天王に勝てないって言われて。本当はバースだって勝てないことを……」
「うるさい!」
 ジョニーに一喝し、
「お前になにがわかるんだよ! 勝手にないことをべらべら喋ってウザイんだよ! お前までオレの邪魔するわけ!?」
「そうじゃないってば! 落ち着いてよ、バース。ボクはそんな気で言ってるんじゃない、ボクはバースを見ててそう思ったんだよ! ボクの理想に対する観察眼を舐めないで欲しいね、バースみたいな女性になるのをボクは夢みてるんだからいつでも細かい動作の一つ一つを見てるんだ」
「オレは男だっ! ……邪魔だよ、皆邪魔だ。もうついてくるな」
「あぁもうっ……どうしてそう意地をはるんだい、君は!」
 歩くスピードをあげたバースの後をジョニーは駆け足で追いかける。バースは完全にジョニーのことを見なくなり、先にあるつり橋まで歩いていく。
 ここに辿りついた時点でバースの心は決まった。これ以上、彼らと旅をすることをやめ一人だけでも四天王を倒そうと考えていた。ロアには勝てないと言われたが、勝てない筈はないとバースは何度も心の中で言い続ける。
「……この腑抜けが」
 温くなったロアを責めることで、バースは少しでも心の奥にある気持ちを消そうとしていた。
バースは決して愚かな少年ではない。
 実は勝てないことを知っていた。それでもそのことを認めることができなかった。
バースの魔王としての誇りが拒み続けたからだ。
 勝てないと知りつつも、四天王に戦いを挑む自分はやはり愚かなのかもしれない。
 しかしもう戻ることはできないと、新しい街へ続くつり橋を渡っていく。
「危ないっ!」
 背後でジョニーの叫びが聞こえ、一体何が危ないのかバースにはわからなかった。
「はっ? 何言って……!」
 つり橋の半分を歩いていて、バースはやっとジョニーのいう言葉の意味を理解した。バースの足元の木が嫌な音をたてて崩れる。
 どうやら橋の板が腐っていたらしい。バースは一瞬の浮遊感の後、自分は遥か下に叩きつけられるのだと思った。残念だが、ロアのように飛ぶことはできない。このまま落ちていくしかないのだ。
 彼に唯一できることと言えば、落ちる際に少しでもダメージを和らげることであった。
 不思議と怒りと悔しさはなかった。空しさだけである。
「バース!」
 足場がなくなる浮遊感は消え、次に感じたのは腕が千切れそうな痛みだった。
「ば、バース……大丈夫かい……」
 ジョニーがバースの腕を掴んでいる。ジョニーとて、この橋にいたら自分も落ちるということぐらいはわかっている。以前のジョニーなら、自分の身を危険に晒しても人を助けたりはしないだろう。
 だが、今のジョニーは咄嗟にバースを助けるということしかなかったのだ。
「離せ、何でオレの手を掴んでるのさ……。お前だって落ちるよ、わかったなら早く」
「いやだぁー! ボクは絶対に離さない。ボクは君を見捨てたりするもんか! まだ話したいことは山ほどあるんだ……このまま黙って見過ごせないよ」
「なんでそんなに……オレのこと。どうせ、女のためがどうのっていう理由なんだろ? そんな理由なら離せよ! そんな理由で助けられたくない!」
 自分の手を掴むジョニーの手から逃げようと、バースは宙にぶら下がった状態で何度も体を動かした。
このまま動き続けていれば、ジョニーだって手を離すに違いない。
 バースはこのままジョニーに助けられるのが嫌だった。
「本当にそれだけの理由で助けると思ってるのかい? いくらなんでもボクはそこまで酷い人間じゃない。バース……ボク達って期間は短いけど、仲間なんじゃないのかい? まぁ、仲間とまではいかないかもしれないけど、ただの他人じゃない。そんな人を助けて何が悪い! 女に近づきたいとか思うことは色々あるけど、今はとにかく君を助けることが一番なんだってば」
「……でもこのままだとジョニーだって落ちる。このつり橋もろいんでしょ? 二人分の体重で落ちるんじゃないの? だから誰かを呼びに行くとかしたらどうなのさ」
「呼ぶってこんな場所、誰かいるのかい? だって魔物出るんでしょ? 怖がって人なんて寄ってこない……」
 ふっと自分の上が陰り、ジョニーは大きな雲でも通っているのかと思った。
「ジョニー! 後ろに魔物! 早く手を離せ」
「えっ、えっ!」
 後ろを振り向きたくても、今振り向いたらバースを支える腕の力が弱くなってバースの手を離してしまうかもしれない。確かに雲にしては形もおかしいし、第一息を吐く音が雲からする筈はない。
 魔物は恰好の餌食として、二人を見ている。戦う術を持たない者は、例えつわものであったとしても牙を持たない弱き者と同じであった。
 弱き者と化した二人には魔物に抵抗する術がない。バースが炎を出したとしても、この位置からでは魔物には届かないし、下手をしたら橋を燃やしてしまう。
「いいから離して、オレは平気だから。だから早く逃げろ!」
「嫌だっ! け、ケイ……助けてよケイ! 用心棒だろ、用心棒なら助けにきてよ!」
 突如として出た名前がケイであることをジョニーは頭の中で理解できないまま叫び続ける。
――こんな時に限ってこないなんて意味ないじゃないか!
「ケイ! ケイぃっ!」
 後ろで魔物が動いたのが、微かに風がジョニーの首筋を掠めた。
――駄目だっ……
 目を強く瞑り、暫く待つこと数秒。
 やってきたのは痛みではなく、魔物の咆哮とその魔物が下に落ちていく音。
「あ、あれ? もしかしてケイ? 来てくれたのかい……」
「……君達はどうしてこう心配をかけさせるんだい?」
 ジョニーの予想とは裏腹に聞こえた声は、ケイではなくロアの声。
「ロア、ロアなのかい! なら早くバースを……」
「わかってる」
 ジョニーの横を通り、浮遊状態のままロアはバースを引き上げる。ジョニーはバースの重さに開放され、橋が完全に落ちる前に避難をすることにした。
 橋はジョニーが渡りきった後に、また足元が静かに崩れだした。
「……うわぁ、危機一髪だったわけね」
 一方腰を抱きかかえられたまま移動するバースは、妙な気恥ずかしさとどうロアと接したらいいのかわからないという気持ちでずっと俯いていた。
 そして安全な場所につくなり、ロアの腕を振りほどいてそっぽを向いてしまう。
「ちょっとバース、助けてもらってその態度はどうかと思うよ?」
「いいんだよジョニー。別に私は気にしてないよ、バースが私と話をしたくないなら仕方ない」
「それでいいの? だってロアはバースのことを大事な仲間だって思ってるんでしょ? 多分ロアの場合はケイ達も大事に扱ってる気もするけどね。でも特にバースは一番気にしてる……これ自分で言っててこれ悲しいよ。ボクの理想であるバースとそんなに仲のいいロアにジェラシー感じそう」
「……。バースと一緒にいる時間が皆より多かったから、余計気になるのかもしれない。バース、君は今の自分では四天王に勝てないことを知っていたね? ならどうして私があんな方法で君を止めたかわかるかい? ……私は傷つくのが見たくなかったんだよ。今行ったらただ傷つく……下手をしたら死んでしまう。でもあと少し私達が変われば、状況は変わる。いや変えてみせる。だからその時がくるのを待ってていて欲しかった」
 穏やかなロアの声がバースの中で何度も繰り返される。以前、旅を共にしていた関係だというのに、気持ちに気付くのに随分時間がかかったとバースは思う。
「ほーらバースのこと心配してるからあんな風に叩いたりしたんじゃないか。あぁ、余計ジェラシーがふつふつと……この仲のよさをボクに分けてくれないのかい!?」
「無茶苦茶言うね……。ただバースと話す機会が多いだけだよ」
「ならその機会をボクにプリーズ! ボクには野望があるんだから! そう例えば……」
 バースがロアに向き合い、口を開きかけた瞬間、
「こういうことを知りたいんだ!」
 バースはロアとの和解ですっかり警戒を解いていた。そこにジョニーの熱き情熱と呼ぶべきか否かは別として、ジョニーはバースに抱きつき胸囲と腰回りを触っている。
 ようは三十路男による胸と尻を触るセクハラだ。
「……やっぱり全体的に細い。もう少し、ボクもダイエットが必要か……でも予想外に胸の部分が太い……そっかバースは着痩せするタイプだったのかー。これは新たな発見」
 バースはジョニーの行動に固まって動けずにいる。代わりに動いたのはロアであった。
「ジョニー。あとで覚えておきなさい?」
 ロアは笑顔を浮かべたまま、ジョニーに手刀を入れ気絶させる。
「……彼は何を考えているのか時折わからなくなる……。バース、平気かい?」
「へ、平気なもんか! 何で胸や尻触ってくるのさ! キモイ、キモイって! ……折角、少しは見直してやったのにさ、このオカマ!」
「君が見直すとはね……。少しは人間に興味が湧いたかな?」
「知るか! てかロアに殴られた頬が痛いんだけど。初めてロアに殴られて痛いんだってば!」
「すまない、バース」
 素直に謝るロアに、バースは言うべきことを忘れてしまい言葉にならない。
「な、何でロアが謝るのさ。だってオレのほうが……その……」
「君の気持ちはもう十分わかったよ。もう言わなくてもいいから。でも、もしいつか言いたくなったら言いにおいで。いつでも聞くよ」
「……ロアって、何でそう気遣うのさ? それにオレの言いたいことまで汲み取ってさ」
「君の場合は正直だから言いたいことが安易に想像できるんだよ。気遣うのはね……癖かな?」
「本当、ロアって温いっていうか優しいよね」
「そんな私はやはり腑抜けかい?」
「ちがっ……オレは別にそのまんまのロアでいい、不快じゃないから。それよりも触れたところが不快なんだってば! ……決めた、オレすぐに風呂入ろう。風呂で体洗って、汚れを落とす」
 バースは気絶したジョニーを放っといたまま、宿へ走り出す。ロアはそんなバースに笑みを浮かべると、気絶したジョニーを運んで帰ろうと彼の足を掴むとそのまま引きずって帰っていった。


 その後、目が覚めたジョニーはやはりバースに対するしつこいまでの執念で、バースの風呂を覗こうと果敢にチャレンジするが、ロアという大きな壁の出現によってバースの肌を拝むことはできなかった。
代わりに拝んだ肌はというと、
「なんだー? 俺が風呂入ってるときにやってくるなんて……そうか、俺の逞しい肌が見たいってことだな? いいぜ、存分に見て俺がどれだけ勇者として素晴らしい存在であるか証明してやるぜ!」
「ち、違う! ボクの理想は違う! ちがうんだぁぁぁぁぁっ!!」
 アルバートがポーズを決めるなか、ジョニーは心の底から絶叫した。

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