バースはロアの行動に立ちくらみを覚えた。
 正しく言うとロアがアルバートに対して立ちくらみを覚えたのだが、今は体の都合上バースが立ちくらみを覚えることとなる。
「あ、ダメだ……ロアが輝きすぎてボクにはよく見えないや……」
 ジョニーは爽やかな笑顔を浮かべ、ロアのほうをまったく見ようとしない。
「あれは私じゃない! アルバートだ! ……流石にこれは立ち直れる気がしない」
 溜息をつき、何とか崩れ落ちそうにならないように耐えるが、本当は頭を抱えて崩れ落ちてしまいたかった。そして本来、風属性のロアの体に光属性を使うことに無理があるのか、ロアの体によるアルバートフラッシュはいつもの輝きを出す前に消えてしまう。
「だぁー! この役立たずがぁっ! 俺の技が消えちまったじゃねぇーかよ」
「お主、その体を誰だと思っているのだ? 少しは考えて行動をせい」
「……なんだかなぁ……。俺に怒られるって不思議な気分だぜ……」
 一方魔物は、アルバートフラッシュの情けなさに鼻で笑うような動作を見せる。
「むっかー! 魔物のクセに俺を馬鹿にすんのかぁっ!」
『けっ、あんなへなちょこ魔法使ってんじゃねぇよ、バーカ』
 こんなことを実際に魔物は言っていないが、ロアにはそう言ったような顔に見えるらしい。
「おのれぇぇぇ、こうなったら必殺のアルバートパンチを……」
 見るに耐えないとバースはついに頭を抱え始め、また深く溜息をつく。
 そしてこう思う。
 アルバートが自分の体に入った時点である程度の醜態は予想するべきであったと。
「このパンチを食らった奴はソッコー、あの世行きだぜ!」
 腕をぶるんぶるん回す姿を見た瞬間、バースの中ではっきりと答えが導き出される。
 バースはゆっくりロアの背後に立ち、
「君は少し黙っているように」
 バースの顔には満面の笑顔。
 そして気付いたときはチョップがロアの脳天を直撃し、彼の周りには星が飛んだ。
「あ、あれぇー理想であるバースの笑顔なのになんかコワイー」
――本当に直視できないや、あははは……
 バースは笑みを浮かべたまま、ロアをあざけ笑った魔物達を倒していくのであった。
 しかも一撃で確実に。
「……逃がさないよ」
 ちらりとバースは木の上を見る。事の原因である魔物がこの様子を楽しそうに見ていた。
「あ! あの魔物だよ! あの魔物でソフィー達がおかしくなったんだもん!」
「絶対に逃がすわけにはいかぬ」
 魔物はアルバートの視線に気付き、逃げようと跳躍しようとしたがそれよりも前に首を掴まれる。
バースが笑顔を崩すことなく首を掴んでいる。
「元凶を逃がすほど愚かなことはしないよ。さぁ残された選択肢は二つだ、大人しく私達を元に戻して天国に逝くか、抵抗されてボロボロになりながらも私達を元に戻して地獄に逝く。どちらがいい? ほらこの体は短気だから早くしないとどうなっても知らないよ?」
「オレの体で好き勝手やって……。頼むから笑顔だけは止めて欲しいかも」
 ソフィーは選択肢に関しては何もいう気がなく、ただ自分の体が笑顔を浮かべていることをあまりよく思っていないようである。
「……ロア、それどっちも意味同じだから」
 ジョニーは言わずにはいられなかった。
「ジョニー、今は細かいことを気にしている暇ではないよ。さぁ、早くしたらどうだい?」
 魔物を掴んだまま地上に降り立つ。魔物はじたばた動くこともできず、石像のように固まっている。その魔物の様子など気にも留めずにバースはもう一度、煙を吐けと囁く。
「……とりあえず、これに元に戻れそうだな」
「ケイ、君って結構動じてないよね。コレに」


 魔物の煙を数えること数十回。何度も煙を吸い込んだが、五人はやっと元の姿に戻っていた。
 ジョニーは他人事であったから、この現象をもう少し眺めてみてもいいと思っていたがそんなことは恐ろしくて口に出せない。
 逆に五人はやつれ、特にロアが一番やつれているように思える。
「あぁーやっと元のカッコいい俺に戻ったぜ……。カッコいいだろう? ソフィー」
「うんっ、凄くカッコいいよアルバート。やっぱりソフィーのアルバートは金髪碧眼ネ★」
「あいつらさっそく……ウザイ」
「……バース、二人を相手にするんじゃありません。というより今はどうでもいい……」
「なんかさ、凄くいつもの日常って感じなんだけどいつも仲悪いよね。あそこ」
 ジョニーはケイと共に後方を歩き、前の四人を指差す。
「ソフィーよりもアルバート達であろう?」
 そう、正確にはロア・バースとアルバートだ。元々アルバートはロアをライバル視しており、ロアもさほどいい感情を抱いていない。バースの場合はバースが一方的にアルバートを嫌っており、アルバートはバースを追いかける姿となっている。
「いつまで険悪ムード続くのさ? だってあの三人が和気あいあいと話してるところなんて見たことないし。別に腕を組んでルンルンタッタしてほしいとまでは言わないけど、多少はほらねぇ」
「るんるん……? 確かにこれではいざという戦いで乱れがでるかもしれぬな。今は運よくなかったがこれから戦いも激しくなるだろう、何か手を打つ必要があるかもしれぬ」
「うんうん。で、ケイは何かいい案があるのかい?」
「……うむ、ないことはない。だがこれは薬ゆえ……無理やり人の心を変えるようで気が進まぬ」
「えーいいじゃん。使っちゃいなって★ どうせ薬って言っても万能じゃないんだからさ、ほらきっかけ作りだって。きっかけ。ケイ、使っちゃえ★」
「……し、承知した」
 ケイは懐から小さな小瓶を取り出す。これは以前、ケイが一人で旅をしていた時に調合した薬であると彼女は言う。
「それでそれどうやって使うのさ?」
「これをロアとバースに飲ませ、そしてアルバートを見ればよい。この薬は嫌いな者を見ることによって効果のでる薬。ただそう残ってはおらぬ」
 小瓶にはまだ薬は残っているようだが、振った時の水音からするとそう残りはないようだ。
「……なら水で薄めちゃえ」
「なぬ!? お主、それ本気で言っておるのか……」
「だってないなら仕方ないとボクは思うけど。大丈夫大丈夫、だって何か飲み物に入れちゃうんだから自然に薄くなるって」
 ジョニーはケイから小瓶を取り、笑みを浮かべる。
 皆の入れ替わり事件を見てから、ジョニーには少し事件を楽しむ余裕がでてきたようである。どうせ大したことにならないのだから飲ませても問題ないだろうと彼は考えており、この先に起こる事件などまったく想像できずにいた。


「ちょっと何様のつもり?」
「それは私の台詞だよ」
 二人が睨みあっている。
 アルバートをはさんで、ロアとバースが。
「アルバートにちょっかい出さないでよ。ロア、アルバートのこと嫌いなんでしょ?」
「その台詞、そっくり君に返すよ。誰がいつ彼を嫌いと言ったかな?」
 アルバートは何で二人が自分をはさんで喧嘩しているのか理解できなかったが、このまま放っておく男でもない。
 嵐があれば嵐の中に入り込む。アルバートとはそんな男だ。
「ちょっと待ったぁぁ! 何で喧嘩してっかはしらねぇけど、この喧嘩を放っておくことはできねぇぞ! さぁ何が原因かはっきり言ってみやがれ。このリーダーである俺が解決してやるぜ★」
「流石、アルバート……」
 左右の指を組んでソフィーが言った……ではなかった。ソフィーは先に自分の台詞を言われ、指を組んだまま固まっている。
「な……ロア!?」
「何を驚いているんだい? ただアルバートに感服しているだけだろう。流石だよ、皆の為に前に立つ君の姿……見習うべき点が多すぎる」
 これぞ青天の霹靂。ロアはバースに比べたら温和なほうであり、多少の社交辞令を言える人間でもあった。だからといってアルバートを褒めることは一度もなかった。
 そのロアが見習うべき点が多いと言い、尊敬しているのは有り得ない。
 周りは口が開いたままロアを見ている。しかもジョニーとケイはこの原因を知っているのにも関わらず、ソフィー同様の反応をとってしまっている。
「な、何でロアちゃんがアルバートを褒めてるの!? だって、だって!」
「そ、そうか……! ついに俺の偉大さを知ったんだな? ふははは、ここまでくるのに時間がかかったがまぁ問題ない。そうさ! 俺はリーダーだからな。これからは俺についてこいよ!」
「勿論だよ、君が一番だ」
「ちょっと待ってよ。何、オレの目の前で勝手に話を繰り広げてんのさ? オレのアルバートにちょっかいだすなって言ってるんだよ」
「オレの!? ちょっとアルバートはソフィーとラブラブなの! バースちゃんは違うでしょー!」
 こればかりはソフィーが受け入れられなかったのか、バースの前に立ちはだかる。
「なにさ、お前がアルバートと本当につりあうと思ってるわけ? お前みたいな馬鹿娘が」
「ひっどいー、ソフィーはかわゆい魔法使いだもん! バースちゃんみたいに暴力はふらないもん」
「ケ、ケイー! 何かおかしくないかい!? 確かほんの少し仲良くなる薬だったよねぇ!」
「その筈だったんだが……」
 薬を水で薄めたせいだとか、薬が実は古かったなどといういいわけを言う余裕すらない。
「ソフィーとバースが俺の為に喧嘩を……」
「アルバート、それよりも君の偉大さをもっと聞いていたんだが」
「おう!? ロアからも……あぁ、俺ってやっぱり世界の中心に立つ男だな」
 アルバートは事の異常さをまったく気にせず、あくまでも自分の世界での話をしている。
 冷静に考えれば、ロアとバースの様子が明らかにおかしいことくらいわかるはずだが、アルバートはこの異常さを何とも思っていない。
「アルバート! ソフィーが一番だよね!?」
「違うだろ、オレがアルバートの一番でしょ?」
「いや、彼の一番は私だ」
「……この展開なにさ! アルバートだけ変にモテてないかい! 普通はボクじゃないの!?」
「お、落ち着けジョニー。このまま放っておくと取り返しのつかないことになる……まず薬でおかしくなっていることをソフィーとアルバートに伝えるぞ」
 ジョニーとケイは四人の元へと向かう。
「あぁ、太陽よ……俺のこの輝きを見ていてくれるか? ハニーであるソフィーの他にバースとロアも俺の溢れる魅力にやっと気付いたようだぜ……」
 さぁ! とアルバートは大きく手を広げ、
「俺にいつでも飛び込んでおいで、迷える子羊ちゃん達!」
「げっ、アルバートがまた話をややこしく……」
 ジョニーが呟く。
 そしてバースが我さきにアルバートに駆け寄り、腕をアルバートの首に回した。

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