『あら嫌だ、ジョニーさんったら何ておかしな妄想しちゃってるのかしら?』
『きっとやらしいことを考えていらっしゃるからよ』

――うるさぁい!
 ジョニーは頭から聞こえてくる声に声をあげた。彼の中の天使が先程から大きな勘違いをしたジョニーを攻めている。
『あの二人がそんなコトするわけないじゃない。ホント、アタイってオバカさん』
『自分の想像力がたくましいせいなのねっ』
――もう、ホント好きにして……
「ジョニー? さっきから何してんのさ」
「そ、そりゃーボクの台詞ってもんだよ、バースちゃん。君達はもしかして昨日もマッサージをしてたのかな?」
「そうだけど。昨日は腰で今夜は肩、見てわからない?」
「あははは、そうデスネ。見たら普通わかるよね……」
「君は一体、どんな想像をしていたのかな?」
 ロアは笑みを浮かべジョニーを見た。その目はジョニーの心を見透かしたようにまるで
 『君の想像したことはお見通しだよ』というようだった。
――き、気付いていらっしゃる!
 逆にバースはジョニーがどんな想像したのかまったく気付かずに首をかしげている。まさかジョニーがよからぬ妄想をしていたのは微塵とも思っていないようだ。もし気付いたら恐らく血の雨が降るかもしれない。バースはこの手の話を嫌いそうだというのがジョニーの中にあったからだ。
「それでロア、続きは?」
「はいはい。中途半端だったね」
 そして二人は何事もなかったようにマッサージを始め、ジョニーだけが取り残された。
 不思議な気持ちだ。
 何でマッサージしている二人を眺めているのだろうと。
 むしろ肩がこっているのはバースじゃなくてロアのほうじゃないのかと突っ込む気にもなれない。
 ジョニーはふとロアの手元、バースの肩を見た。確かバースの肩はそのまま素肌となっており、肩を揉むなら直にバースの素肌に触れるということになる。
 そして改めてみるとロアはバースの素肌に触れた状態で肩を揉んでいた。
 ジョニーの目が妖しくキラリと光る。
「ちょい待ち、ちょい待ち! その肩揉み、ボクがやってあげよーか? ほらロアだって二日も連続でマッサージしてたら疲れるデショ? だからボクがかわりにしてあげるよ★」
「……ジョニー、下心が口から漏れてる」
「んなぁっ!」
 ジョニーは思わず手の甲で口元を拭ったが、勿論下心が口から漏れることなどない。
「ちょっと冗談は酷いナァ、ロア。バースいい子だから言うこと聞いて、ねっ★」
 バースはじろりとジョニーを不信な目つきで見続けて
「どう見ても下心があるから嫌」
 今まで数々の苦難を乗り越え成長してきたジョニーだが、今の一言は彼の心にクリティカルヒットを与えるのに十分で……
「ボカァ、君のことを思ってだねぇ! この瞳にどこに下心が?」
「無駄に目が輝きすぎ。どうせ肩触れてラッキーとか、肩幅でも測っちゃえとか思ってくせに」
――どーして君らはこう揃いも揃ってボクの心を見抜くんだっ!
 再びがっくしとうなだれたジョニーを見て、「ロア、続き」とバースは静かに呟くのだった。


 こんなこともあったが三人は何事もなかったように旅を急いだ。
 誰かの気配を感じたのはロアで、そのうっすらとした気配を頼りに三人は今ここにいる。
「大学、教会、次は……洞窟?」
 ジョニーが首だけを突っ込んでみると冷たい風が顔全体に当たり、すぐに首を引っ込めた。
「寒いね、なんでこんなに寒いんだろう?」
「中に何か冷たくさせる原因があるんじゃないかな。とりあえず進んでみよう、気配はここからなんだ……」
 一体、ここには誰がいるのだろうと考えを巡らせてみた。でも正直な話、そこに誰がいようとも問題はなかった。
 そこに「誰かが」ではなく「誰が」で十分だった。残りの三人の顔を思い出す。
 アルバートだろうか、ソフィーだろうかまたは……
「あれ、なに?」
 バースが指をさした前には巨大な氷がそびえ立っていた。そこから冷気を発していたせいでこの洞窟は異様に寒かったのだろう。まるで人一人を楽々飲み込めそうな巨大な氷だった。
「中に何かあるみたいだね……」
 更に氷に近づき、そして中の正体を見た途端三人は固まる。
「これは……」
 女性と呼ぶにはまた幼く、表現をするなら一人の少女だった。服を着ず、素肌をさらけ出した少女が自分の素肌を守るように体を丸める姿勢で氷の中で凍てついていた。
 ピンクの髪がやけに印象的な少女――
「ソフィー……」
「いや、そのお方はシヴァ様じゃよ」
「シヴァ?」
 近くの村人だろうか、村人は氷の前に跪き祈りを捧げると再びジョニー達のほうを向いた。
「そうじゃ、このお方は氷の神様じゃよ。この村が危機に襲われた時、シヴァ様がお救い下さったのじゃ。それからワシらはシヴァ様をずっとあがめているんじゃよ」
「じゃあこの氷ははるか昔からあったとでも? これはつい最近、見つけられたものではありませんか?」
「ほう、よく知っているのう。確かにこれは少し前にここから見つかったものじゃ。でもこの美しい姿、この巨大な氷、間違いなくこのお方はシヴァ様」
 村人の顔があまりにも本気で三人は否定の言葉を出すことができなかった。
 一度出直そうと洞窟から出るときに何人かの村人とすれ違う。その村人すべてがソフィーをシヴァだと本気で信じていたのだ。
「まいったよねぇー。全員、あのブリ娘をシヴァ……しかも神の化身扱いしてるし」
「本当、魔王からどんどん遠ざかってない?」
 ロアを見ながらぽつりと呟くバース。
「バース、今は嫌味を言っている暇はないと思うけどね。問題はどうやって私達がソフィーを連れ出すかだよ、村の皆は神として崇めている。それを無理やり強奪したら怨まれそうだね」
「でもあれは神なんかじゃない。勝手にそう信じてるだけじゃないか」
 そういいながらもバースの表情は暗い。実際にソフィーとは会話を交わしていないが、それでも課題は一向に消える様子はなかった。仮にソフィーを連れ出したとしてもきっと彼女も記憶を失っているだろう。ジョニー達を見て
 『あなたたち、だぁれ?』と言ってもおかしくないのだ。
「でもやっぱりボクは彼女ともう一度話したいよ。ボクと本気で張り合える子はあのブリ娘しかいないんだからさ」
「そうだね、できる限りのことをやろう」
「……オレ達でどうにかするしかない」


 翌日、三人はまたあの洞窟に訪れていた。本日は実際にソフィーを連れ出すときの下見である。
「ホント大きな氷……。これ、割れるのかな?」
「オレの炎でやってみる?」
「いや待ったほうがいい。また村人が拝みにきてる」
 いくら何でも村人の前で氷を燃やすわけにはいかない。彼らはソフィーを拝みにきたと思わせて作戦を練りに来ているのだ。それを村人に知れるわけにはいかない。
「こんなにしょっちゅう拝みに来られたら困るんだけど」
「そうだよね、村人に知られたらかなりやっかいになりそうだし。わしらの神をさらうでない、この不届き者めぇーってクワ持って追いかけられそう」
「じゃあ村人がいない時間を探すしかないということか。でも……」
 ロアは熱心に祈る村人の姿を見ていた。一体何を祈っているのかは読み取ることはできなかったが、その表情は真剣そのものでそれだけソフィーをシヴァとして信用している証拠だった。
「神を突然失った彼らはどうなるんだろうね。私は前にやはり神を崇める場所にずっといた、神に祈りを捧げることが常だった。だから突然神がいなくなるとは想像もしなかった。まぁ私の場合、実際に神が目の前で眠っているわけではないけど彼らの場合は……」
 しっかり実物として存在していた。神の姿をイメージして作られた石像や絵ではなく、少なくとも本物の神だと呼ばれる者がいる。
「こうして目の前にいるものが突然いなくなったら嘆くのだろうか。自分の支えである神を失って……」
「馬鹿みたい」
「バース?」
「そうやって神にすがんなきゃ生きていけないわけ? そんなに自分に自信ないのってオレならそう言ってやりたい。神がオレ達に何してくれるわけ? 何もするわけない、ただ見ているだけだろ。特にオレ達にはまったく関係ない存在なんだ。そんな曖昧な存在にすがって生きてるのが本当にむかつく。自分達は何もしないでただ助けてもらっているみたいな感じに見えるから」
――バースはどうしてこう一人で頑張ろうとするんだろう。まぁバースの言い分もわかるけど、バースって自分の力を信じてるのかな……。だから一人で戦ったり、決めたりするんだろうか…
「……ロアは優しすぎるんだよ。どうしてそこまで他人に優しくできるの?」

「他人だからだよ。……私は自分には優しくないからね」
――ロアはバースの逆だ、あまりボク等に対して我ままを言ったことがない。いつも皆の意見を綺麗にまとめている。どうして我ままを言おうという気にならないんだろう。それに自分に優しくないっていう意味がよくわからない。
「ほら、私達が勝手に話しを脱線させるからジョニーが困ってるよ」
「え、ボクは平気だって。うん、問題ないよ」
――まだボクは彼らのことを深く知らないのかな。いや彼らだけじゃなくて他の三人も、まだ心に何かがあるようなそんな気がした。そしていつかボク達はまた六人揃って笑っていられるといい。
「……うん、わかった。またその時。……ジョニー、聞いてた?」
「え、えっとねぇ……。忘れちゃった」
「忘れたじゃなくて聞いてないだけだろ! 村人が活動しない時間ってことで夜にもう一回行く事にしたんだって、わかった?」
「夜ね。じゃあ今度こそ、成功させようじゃないの」
 今夜、ソフィーを連れ出す――


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