「この気配はぜぇったいアルバートだもん! 間違いないもん!」
「それでもしケイだったらどうするのさ……」
「もうバースちゃんはそうやってイジワルばっか言うんだからぁ! ソフィーの愛がそう告げてるんだからねっ」
 洞窟を離れ、辿り着いた場はのどかと呼ぶには似つかわしくない村であった。汗水をたらし、畑を耕す村人の姿がやけに印象的で、趣味で畑を耕すというより生きる為に耕しているという雰囲気がした。
「熱心というかなんというか……本当にこんな場にアルバートがいるのかねぇ」
「いるもぉん!」
 村人はよそ者であるジョニー達をあまりいい目では見ていなかった。『早く去れ』と目が告げていたがこのまま大人しく引き下がるジョニー達ではない。ソフィーの言うようにアルバートがいるかもしれないのだ。それを確認するまではこの場を去ることはできないのだ。
「張り切って捜しちゃうんだから」
 ソフィーは村にずかずか入りこみ、村人の顔一人ひとりをきちんと見た。だが金髪の青年の姿は一向に見つけられない。
「むぅ、絶対にいるもん……アルバートがいるもん」
 畑に視線を向けると、ソフィーの瞳はある一点を捉え金縛りにでもあったように彼女の体は動けずにいた。
 短く一つにくくった金髪、後ろ姿であったがソフィーにはそれは誰であるか十分にわかる。
「アルバートっ!」
「……はいっ?」
 アルバートと呼ばれた青年はソフィーの声に振り返り、目を丸くさせていた。首にかけた白いタオルが青年の汗をしっかり吸い込み、手に持つクワは耕している最中の畑にささったままだ。
「えっと……誰を呼びました? ま、まさか俺ぇ!?」
「ねぇソフィーだよアルバート! ソフィーのこと忘れちゃったの!?」
「そう言われても俺はそんな可愛い子は知らないんだけどなぁ。それにアルバートって名前じゃないんだよ俺。俺ロバートなんだよ、宜しく」
「つまりオレ達と同じか」
 目の前にいた青年は明らかにアルバートであったが、バースやロアのように記憶はなかった。そう思うとソフィーだけは例外で、もしかしたらアルバートも記憶があるかもしれないという淡い期待は脆く消え去った。
「あのさ俺、今忙しいんだよ。畑耕さないと親父に叱られちまうから」
「親父?」
「俺の親父だよ。なんか昔の俺って酷く荒れてて親父に迷惑かけちまったみたいなんだよ。だから今は少しでも親孝行してやんねーとさ」
「ロバート、何遊んでいる」
「わりい、親父! すぐやるからさ」
 ジョニーの『親父』に対する第一印象は『見るからに悪役面』だった。でっぷり肥えた腹を揺らしながら偉そうに葉巻を吸いながらふんぞり返っている。指や首を見ると金色のネックレスや派手な趣味の悪い装飾品が目立ち、村の男にしては些か金回りがいいように思えた。
「お前は散々ワシを困らせたからな、一所懸命に働いてくれないとなぁ。おかげで腰を痛めてまで畑を耕さずに済む」
「わかってるって、ちゃんと俺が働くからよ。親父は家でゆっくりしてていいから」
「ふん、わかればいい。それより……お前たちは何者だ? この村はお前達みたいなよそ者を受け入れるほどの余裕はないぞ。今すぐ帰れ」
「なっ、そんな言い方……!」
 男はまったく悪びれた様子もなく、しっしとハエを追いはらうような動作までつけジョニー達を邪魔者であると言い切った。
「つまり金のない旅人には興味がないと言うのですか?」
「当たり前だ、どこの奴かも知れぬ奴等に村に居座られては困る。それで今晩泊めろだの、飯を食わせろと言われては迷惑だからな」
「ふっ、やっぱ田舎者はわかってないわネェ」
 ジョニーは鼻で笑うと、バースの肩を抱く。いきなり触れられたバースは一瞬不快な表情を示したが、横顔でちらりと見たジョニーの目は何か『企み』がある瞳だった。
 ならば仕方ないとジョニーの手を振り払わずに、大人しくしている。
「この高貴なオーラを感じないわけ? 名家の一人息子バース様を知らないなんて所詮ここは田舎者しかいないってことね」
 男の顔が茹でたタコのように真っ赤になり、怒りを表している。侮辱をされたのが気に入らないのかジョニーをじっと睨んでいた。
「まさか……本当に知らないの?」
 これが決め手だった。ジョニーの経験上、傲慢な男ほど知ったかぶりをする。これで知らないと、自ら無知を認めるような真似はしないだろうとジョニーは思ったのだ。
「ふ、ふん! ワシがそんなこと知らないとでも? 他の奴等はともかくワシは田舎者ではない」
「あらぁ、じゃあバースお坊ちゃまのことはご存知なのねぇ?」
「勿論」
 ――こーの、嘘つきが。
 バースは驚きを出さないように無関心を装い、一方ソフィーは更にわけがわからないというような顔を浮かべる。
「ジョニー、それは最後の手段だと私と約束しただろう?」
 ジョニーの意図を理解したのか、ロアはジョニーの『はったり』に信憑性を持たせる為に一役買うために話と続ける。
「もうこうなっては仕方ない、すべてお話をしたほうがよさそうですね」
 さり気なくバースの肩に手を回していたジョニーの腕をはがし
「私達はバース様の修行をお手伝いする為に各地を旅しております。そしてこちらのお方はバース様の妹君であるソフィー様。私とジョニーはこのお二方をお守りする役目を旦那様から授かっているのです」
「それでアタイはバース専用のナイト様なのよん」
 バースはジョニーの台詞が気に入らなかったのか、静かにジョニーの足を踏みつける。突然の痛みに声をあげそうになるジョニーを無視しながらロアは更に話を続けた。
「そしてもう一つの目的は、突然失踪したソフィー様の恋人を捜すこと。しかし先程ソフィー様が貴方のご子息を見て恋人だと言い張りました。しかも名前もソフィー様の恋人であるロバート様と同じ名……もしかして貴方様がソフィー様のお捜しするロバート様ではないのですか?」
 ロバートは驚いてロアの顔を見る。しかしロアは笑みを浮かべたまま男とロバートを見ているだけだ。
「……そうかもしれませんなぁ。今ここにいるロバートは過去の記憶をなくしておりましてな、きっと過去のロバートが出会ったのでしょう」
「そうですか、ならよかった。ソフィー様がロバート様と婚約をしたいと言っておられたのですよ」
「ではロバートはソフィーお嬢様と都会に?」
「えぇ、婚約がすみましたらそうなります。勿論、父上でいらっしゃる貴方にもそれなりの生活は保障致しますよ」
 にやりと男が笑った。そして先程の態度から一転し、ジョニー達を歓迎すると下品な笑い方で硬く閉ざしていた家の扉を開けた。
「ロバート、お前も今日はもう休んでも構わんぞ。さぁ大事な客人方、狭い家ですが中へどうぞ。実はいい葡萄酒が手に入ったのですよ、今夜はこれを開けて飲みましょう!」
 上機嫌で中に入り、ロバートはまだ事がよく理解できていないという顔で続いて入っていた。
「……ちょろいわね」
「いきなり何を言うかと思ってひやひやしたけどね」
「そのわりにはうまく作ってたくせに」
「オカマちゃんとロアちゃんの嘘つきぃ」
「ブリ娘、これは演技よ。アタイがレベルの高い演技力をしたからこそ、あのデブは軽ーく引っかかったんじゃない。ロアもいい感じにアタイに合わせてくれたしね」
「まぁ慣れだよ。……それよりバース専用の騎士とはどういう意味かな?」
「そう、何勝手にオレ専用になってるのさ」
 下からバースは睨むが、ジョニーはまったく気にした様子も見せず
「もうそのままの意味よ。アタイがバース専用でロアがブリ娘専用! たまにはアタイにバースを譲りなさいよねっ。はい、この話は終わりっ! 早く中に入りましょう、ずっと外にいたら不信がられちゃうわん」


 実際、食事は息が詰まるほどの退屈なもので、媚びへつらう村長にバースのフォークが何度もかたかた揺れ、ソフィーも飽きたような顔をしていた。その度、ジョニーとロアが上手くフォローに入り、村長の視線を自分達に向けさせるように努力した。
 だが流石のジョニーも段々嫌気がさし、いつ本音を言うか正直怖かった。その中終始、崩れることなく演じ続けたのはやはりロアだった。
 『この最強の嘘つき』と冗談めいてジョニーがこっそりロアに言うと、『お褒めの言葉して貰っておくよ』とその時も彼は笑みを浮かべて返したのだった。
 そして今、非常に長く感じた食事が終わり客室に四人はいる。
「内部に入れましたと。やっぱ記憶を取り戻す方法になるとこのペンダントを見せてみようか?」
「それアルバートがいつもしてた青いペンダント……。アルバート、ソフィーのことわかってくれるよね? だってアルバートはソフィーのダーリンだもん」
「あの馬鹿が入ってうるさくなることはもう覚悟できてるよ、さっさとロバートから戻そうよ」
「悪い、少しいいか?」
 ドアの向こうから聞こえる声はロバートだった。彼は部屋に入るなり、真剣な表情で
「あの話、マジか? あまりにもよく出来すぎてるだろ、確かに俺は過去の記憶はなかったけど昔に恋をしてたなんてさ……」
「してた! ソフィーとアルバートはラブラブだったんだよ! いつも一緒にいて甘いお菓子食べて、街でデートして遊んで……ソフィーはアルバートのこと好きだよ。アルバートはソフィーのこと嫌いになったりしないよぉ」
「あ、いやそんな顔されると俺どうしたらいいか……」
 泣きそうなソフィーを前にしてロバートはおろおろしながら、必死で言葉を取り繕うとしていた。『アルバート』と違う名前で呼ばれたことを指摘する余裕もないほど、ロバートは今にも泣き出すソフィーになんと声をかければいいかわからなかった。
「ソフィー、落ち着け。君がうろたえたら彼が困る」
「でっ、でも……アルバートが、アルバートが……」
「ねぇこれに覚えはないかな?」
 青いペンダントを手渡され、ロバートは最初見た事のないような瞳で見ていたがどこか違和感を覚えるのかペンダントを何度も見続け、彼の中で答えを出すのに必死な様子であった。
「……どうしてこのペンダントはこんなに傷だらけなんだ? 綺麗じゃないのにどこか懐かしい、そんな気分だ」
「傷だらけの理由が知りたい? それはその持ち主が皆の壁役を買ってでたからだよ。『皆を守るのは俺しかいねぇだろ、だから任しとけってんだ』って言って」
「そっか、だから傷だらけなのか」
 懐かしい面影を一瞬見せたが、また彼はジョニー達の知らぬ表情を浮かべ
「……俺はまだあんた達を完全に信頼できねぇないけど悪い奴じゃないみたいだな。それであんた達に一つ聞いてもらいたい話があるんだよ、実は俺の親父が夜な夜などこかに出歩くみたいなんだ」
「夢遊病ってこと?」
「それなら医者に相談してるだろ! それで村外れに行ってるみたいなんだけど途中、魔物に襲われたらってな……もし出たらクワでガツンとぶっ叩いてやろうかと思ってるけどよ」
「でも今までは平気だったんだよね? なんでわざわざこんな話を」
「……よそ者がやってくると近いうちに村人が食われちまうからだよ。親父は『それはよそ者が魔物を知らないうちに呼んでる』とか言ってるけどよ。だからここに来た時、村人があまりいい顔しなかったろ? それでもし今夜、親父が外に出て魔物に食われちまったら」
「それこそ出来すぎた話だ。よそ者が来るたびに人が食べられるなんて聞いたことないよ」
「俺は不安なんだよ! もしあんた達が来た事によって、この村の奴等や親父が魔物に……!」
「じゃあ村長を捜してみようか? 何かあるみたいだしね」
 ジョニー達がロバートと共に客室から一階に降りてみると、すでに村長は家にいないのか暖炉の薪が爆ぜる音だけが居間に大きく響いていた。
「確か村外れだったよね?」
「あぁ、こっちだ」
 村は息を潜めるように静まり返り、その静寂さがジョニー達の緊張感を煽った。足音もなるべくたてぬように歩き、僅かな気配でも見逃さぬように神経を集中させた。
「しっ、声が聞こえる」
『……も……好きだね……』
 まだ距離があるのか所々しか聞き取れない。ジョニー達は互いに目配せし、再びゆっくり歩み寄ってみる。
『まぁ俺等としては美味しい子供や女を食えるだけで満足だけどなぁ』
「その代わりにワシはお前から報酬を貰う。ワシとお前さんは商売友達ってところだな」
『人間は強欲でいいぜ、特にお前みたいな強欲とはいいトモダチになれそうだぜ、ひひっ』
「あれって魔物と村長……もしかして危ないことしちゃってたのぉ」
「どうやら取引のようだな。まさか魔物と取引を交わすなんて」
「じゃ、じゃあ村の奴等がいなくなったのって親父のせいなのかよ? 嘘だよな、親父はそんなことしねぇよな……」
 だがロバートの悲痛な呟きは、二人には聞こえないのかそのまま残酷な言葉を紡ぎ続ける。
『で、お前の息子だっけか? 今夜食ってもいいだろう?』
「いや待て、あれはついさっき金づるになったところだ。あと数週間待て、そうしたら好きに食ったらいい。そもそもワシがあれを食ってもいいといったからな」
『自分の息子を魔物に食わせるなんて悪い人間様だぜぇ』
「息子? あんなのただの拾いもんだ。拾ったものをワシがどう扱おうともワシの自由、村の奴等はあれを養子と思ってるようだがそもそも息子などワシにはおらん」
「……嘘だろ、親父ぃっ!!」
 耐え切れずにロバートが飛び出し、村長の胸倉を掴み力強く揺らす。
「離せ、この馬鹿者が! お前なんか最初から魔物の餌にするために置いてやったまでだ」
「親父……俺は、俺は親父の子供じゃねぇのかよ」
 力なくうな垂れるロバートの手を村長は強引に剥がし、地面に叩きつける。
「そうだ、このまま何も知らなかったら幸せだったのになぁ。魔物、予定変更だ。アレをすべて食ってもいいぞ」
『へっへっへ、そーこなきゃな。あっちの肉の硬そうな男二人は微妙だけど、残りの二人は柔らかそうで美味そうだぜ。じゃあさっそ……』
「もぐらさん、やっちゃってぇ!」
 魔物が台詞を言い終える前に、ソフィーの魔法で呼びだれたもぐら達が魔物の腹をとらえ体当たりをし、魔物は咆哮をあげながらあっさり沈黙する。
「あっかんべーっだ! アルバートを傷つけるなんてソフィー、絶対に許さないんだから! それに弱くてソフィー達の相手にならないよ!」
「なっ、魔物が一撃だと!」
 魔物があっさりやられたことに衝撃を隠せず、村長は逃げ出そうと足を動かそうとしてみるものの、体を駆け巡る恐怖が足の動きをおさえる。
「……そうやって、村人はお前によって食われちまったのかよ。なに貰ったか知らねぇけど自分の為に村人を犠牲にしやがって……これ食らって反省しやがれっ!」
 怒りに満ちたロバートの瞳が村長の顔をとらえる。そして彼の拳が村長の太った頬にめり込み、太った体が羽のようにふわりとあがると木まで吹っ飛ばされた。
 ぐしゃりと樹皮が折れる音と村長の漏らす声が同時に奏で、ロバートはもう村長を見ることはなかった。
 そして殴った右手にはいつの間にか握り締めたままのペンダント――。
「あんにゃろ……このアルバート様を怒らせるとどうなるか……ん?」
「い、今確か『アルバート』って」
「言った! ちゃんと、そう言ってたよ! じゃあソフィーのこともわかるのね、アルバート」
「……お、おぉ! 愛しのソフィー! ふわふわの髪の毛がいつの間にかストレートに!? でもその髪も十分可愛いぜ、勿論その服装やソフィー自身も可愛いぜマイハニー」
「いやぁん、もうアルバートはそう言ってくれなきゃアルバートじゃないわ★ 髪の伸びたアルバートもカッコいいよ! 更に男らしくなってすっごく素敵」
「戻ったらこうなるってわかってたけどさ……」
 すっかり二人は世界に入ってしまい、互いの姿しか見えていなさそうだ。
「またうるさくなった」
「そうかな? やっぱあともう一人加わって『うるさくなった』っていう感じがするんだよね。あとはケイだけか……彼女は今どこで何をしてるんだろう」
 ジョニーは夜空を見上げた。
 この同じ夜空を彼女も同じように見ているのだろうか、それとも見られぬ状態なのだろうかそんなことを思いながら。


「ここはお任せ下さい、必ずあの者を殺してみせましょう。人間は非常に愚かです、だからこそ使いようによってはいい武器となることができる。上手く操れば人一人、いえ何千人も殺せましょう。……それでは御朗報をお待ち下さい」
 男は水面に映る自分の姿をそっと撫でた。水の張った桶がゆらゆらと波をたて、男は水から手を取り出すと服で軽く水気を取り、机へ向う。
 机には地図が広げられたままで、あと数日したらこの地図から一つの地名が消えることになる。
「計画は完璧だ、一つの国を滅ぼすことなんと容易いこと」
 部屋には男しかおらず、男の狂気に満ちた表情を見るものはいない。
「必ず消してくれよう。エリザベス12世。いや――」
 唇が言葉の形を作ると同時にぐしゃりと地図が握り潰され、男は笑みを浮かべた。


「おっしゃ、この俺が戻ったからには安心しろって。さくっとケイも助けに行こうぜ!」
「ホント、君らしいね。その口調」
「そりゃな。ジョニーも両目だして随分男前になったんじゃねぇの?」
「それ嬉しくない! アタイはねぇ、『綺麗』って言われないと気がすまないワケ。そーゆー君は赤いマントなんかしちゃってすっかり村人からかけ離れたじゃない」
 出会った時のアルバートはいかにも『農民』といった姿で、旅をするには少々不恰好であった。だから彼もソフィーと同様に、服屋に入り服装を変えたのである。
「もうっ、その赤いマントがソフィーの王子様みたいでいいんだからねっ!」
「そうだろう、何と言っても俺はソフィーの王子兼勇者だからな!」
「アルバート、そんな風に大声で告白するあなたが素敵」
「ソフィーのためならどんな場所だって告白してみせるぜ」
 周りがちらちらとアルバートを見ていたが、彼にはソフィーの告白で頭がいっぱいで文字通り『どんな場所』での告白であった。
「あんたらぁ、アタイの前でブリブリラブラブしてぇぇ」
「ロア、ほっといてオレ達は二人で先に行こうか」
「それはいい手だね、三人は無事仲良くしているみたいだし」
 二人は後方で言い合う三人を見もせず、溜息をついた。
 ジョニー達がいるのはとある城の中だ。アルバートが記憶を取り戻すなり、ケイと思われる者の気配を感じるといい始めたのだ。いまだに何故感じるのかジョニーにはわからなかったが、手がかりとしてあるならそこに行かない理由などはない。
 そうして無事に城に着いたのはいいが、この城はこれから戦争でも起こるのだろうか。城内では武装した兵士が多く見られた。皆、緊張した面持ちで見張りをしておりジョニー達が城内に入れたのは幸運といってもいいだろう。
「でもケイちゃんってどこにいるんだろうね。誰かの子供になっちゃってたらどうしようー」
「可能性はあるよなぁ、ほら面倒見のいいばぁちゃんが子供拾って孫のように育てたなんて……」
「考えてみても仕方ないことだ、とにかく今はケイの姿を見つけることを優先させよう」
 ジョニー達は頷き、角を曲がった瞬間柔らかい感触がジョニーを襲う。
「きゃっ」
「王女! あれほど脱走はお止めくださいと……!」
「嫌よっ、だってずっとお部屋の中で一人は寂しいわ。外に出れてもお庭しか行かせてくれない、本当はもっと色んな場所に行きたいの!」
「え、えっと……」
 ジョニーの腰に抱きついたまま少女は離れようとしない。
「あっ、ごめんなさい。ずっと抱きついたままだったわ」
 少女がジョニーから離れ、そっと見上げた。
 歳相応の柔らかい笑顔、それは両親に深く愛された証拠だろう。愛らしい二つの瞳はジョニーを見つめ、ふわりとしたスカートは春風に揺れており、髪の一本一本が確認できそうなほどに細くて綺麗だった。
「王女……人懐っこいところは大変素敵だと思いますが、そうやって殿方に抱きつくのだけはお止め下さい」
「だって角を曲がったらすぐに人がいたなんて知らなかったんですもの。ごめんなさい、私の不注意なの。どうかしましたか?」
 ジョニーは言葉に詰まった。それはこの少女があまりにも可愛らしくて声が出なかったというわけではない、確かに可愛いと思っていたがジョニーの思うところはそこではなかった。
 ――ケイ、君は王女としてここにいたのかい?
 そう言いたくても言えなかった。周りも言葉にならず、愛らしいケイを見つめるのみだ。
「ねぇ、貴方達はここの人じゃないよね? 神父様を連れた旅人さんでしょ!? 外ってどんな感じ? 小鳥や森や草原は一体どうなってるの? お花は?」
「王女、いきなりそう聞くものではありませんよ。この方々がお困りになります」
 女中は王女の天真爛漫さに、ほどほど手をやいているのかその台詞は溜息交じりだった。
「だって……旅人さんは外のことを知っているのでしょう? だったら私は色々聞きたいの、少しでも外が知りたいの。私は王女であまり外に行けないから、ねぇ少しこの旅人さんとお話しちゃだめ? だって凄くいい人達みたいだし。お願いっ」
「……ぼ、ボク達はいいですよ? 王女と一緒に話すことは」
「本当!」
 王女はジョニーの手を掴み、嬉しそうな顔で
「私はエリザベス! お父様やお母様は私のことを『エリザ』って呼ぶの、だから旅人さん達もそう呼んでいいよ!」
「そう。……初めまして、エリザ」

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