魔物の体から何本の線がケイの手に流れ、魔物は何も言わぬまま倒れこんだ。
 ……まるで魂を吸い取られたかのように。そう彼の目にはうつった。
 そして初めて見る魔法にジョニーは怯えていた。
 ジョニーの中で魔法はもっと優雅で派手なイメージを持ち、炎で相手を攻撃したり優しく回復をかけたりというのが彼の『魔法』であり、魔物の魂を生々しく奪うものを『魔法』とはとらえていなかった。
 逆にケイは動揺の色などまったく見せず、
「解るか?」
「あ、その、け、ケイ……。いまのってさ……」
「……だからこれが魔法だ」
「いやそれはこの話の流れで十分に解るんだけどさ!! ど、どうなってるのさ!? 手から線がいっぱい出て、魔物がバタンって倒れて!!」
 ケイは先程の魔物の魂らしきものを手の中で遊ばせながら
「この魔法は奪魂と言ってな、書いて字の如く相手の魂を奪うもの。奪われたものは何が起こったか解らぬまま死に絶える。それでこの奪った魂だが……」
 右手に残る魂を強く握り潰す。
「ぎゃあっ!!」
「……何を驚く? わらわにはこの魂など不要。場合によっては自分の体力を回復するために使用したりするのだが今はその必要はない」
 それにこんな雑魚の魂などいらぬ。と付け足す。
 その時の目が、微かに笑っていたことをジョニーは知らない。
 ジョニーはケイの表面の怖さだけで圧倒され、ケイの内面などまったく気にかける余裕などなかった。
 ケイに言わせてみれば、自分の名を語る雑魚を消せたことを嬉しく思いつつも、まだこんな雑魚を相手していかなければいけないのかという憂鬱もあった。
 特別、弱い者虐めを好む性格ではない。むしろ強敵を倒すことを好むケイには雑魚倒しは億劫で仕方がなかった。
 しかし、これもしなければならない使命だと思うと……まだやれる。
「……てかさその魔法、ボクにとっては凄く心臓に悪いんですけど……。嫌だよ! いきなり後ろから奪われたら」
「何故わらわがお主の魂を奪う話になる? 安心せい、いきなり奪うようなマネはしない。というよりする理由がないであろう。……今のところはな」
「なに!? その間は!!」
 今、奪ったりしたらこの人間を連れる必要もなくなるからだ。今は撒き餌としてジョニーの傍にいなければいけない。
 決して殺さぬように彼を守りながら。
 ジョニーはケイの恐ろしい思惑よりも、もっと馬鹿馬鹿しい……いや彼にとっては深刻な問題に直面しているのだと感じ取っていった。
 逆らったらきっと自分も『奪魂』で、殺されるに違いない。
 恐ろしい、何てこの子は恐ろしいんだ! とジョニーの中で恐怖心が植えつけられ、心の奥でひっそりと思っていた
 『ケイからの脱出計画』も木っ端微塵に粉砕された。
 今ここで。
「どうもお主の反応はよくわからぬ……。とにかくこれが魔法だというのは理解できたか?」
「え、うん……何となく?」
 顔には実はよく解っていませんと書かれているジョニーに
「……では改めて説明したほうがよさそうだな」
 ケイは落ちていた木の枝を拾い、地面に見事な字でこの世界の属性の種類から書いてゆく。
「……達筆なんだね、ケイ……」
「そうか? あまり気にした事はないが……。まぁ、字の良し悪しはここでは関係あるまい。まずはここを見ろ。この世界の魔法属性は大きく、6個に分かれておる……。 火、水、風、土、闇、光とな。火は水と反発しあい、風は土、闇は光となる。解るな?」
「うん、それは平気」
「そして人には魔法を使える人間と使えない人間が存在する。その使える、使えないの差は血筋だと今は言われておる。わらわも詳しいことは解らぬが、恐らくは元から魔法を使える血筋を先祖に持っていない限り、どう足掻いたところでも魔法は使えぬということだとは思っている」
 もしこれに当てはめるならケイの先祖は魔法筋であることになる。
 ただしこれは種族が『人間』である場合に述べたことであり、実際人間ではないケイにとってこの法則が通用しているのかどうかは定かではなかった。
「本当、血筋だけで出来る出来ないって嫌になるねぇ。ボクもその血筋に生まれたらね、今頃……」
 演技も完璧にこなし、魔法センスもピカイチな超大物女優になっていただろう。
 もちろん、魔法がなくてもジョニーは大物女優にはなれる自信はあったが、魔法という特別ステータスは皆からも注目され、できることなら欲しかったと思っていた。
「それでも……回復の魔法はやっぱり欲しかったよ……うん」
「……。こればかりは努力ではどうにもならぬ。元々、皆が魔法を扱えるわけではない。話によると全体の4割程度の人間しか魔法は使えぬらしいからな。……ところでジョニー、今わらわが使った魔法は、先程述べた6つの属性のうちどれだか解るな?」
 確認を取るようにケイが聞いてくる。恐らく、今までの話を理解できているのかどうか確かめる為の、簡単な問いであるに違いない。
 あの魔法を見る限り、消去法でやらなくとも『闇』という答えが出てくる。しかし、ここで何を血迷ったのかジョニーは少し場を和ませようと、あえて違う属性を言ってみるという賭けにでた。
「もちろん、あれは水★……ギャー! 嘘! 嘘! 闇です! 闇っ!!」
 結果、冗談の通じないケイにはこのボケは、冷たく受け取られケイの刺すような視線にジョニーは慌てて体裁を繕うこととなる。
「ここで妙な笑いを取ろうと思わぬように……。そうだ、わらわは主に闇属性の魔法を使う。属性をしっかり把握しておれば、今後の戦いを優位にすることができる。よいな?ジョニー」
「OK。しっかりばっちり覚えればいいんだね?」
「その通りだ。これなら説明した甲斐というものもある、しかしお主はまだまだ弱い。いつ何時、敵に襲われるかも解らぬ、それにお主には魔王を倒すという大きな目的もあるのだ。こんな場で朽ちるには早い。だから暫くはわらわがお主の用心棒として共にいてやろう」
「そりゃどー……ええ!?」
 ただの利害の一致だけで旅に加わったケイが今度はジョニーの用心棒として旅に参加すると言いだし、ジョニーはただ普通に驚くしかなかった。
 正直、この好意的な展開は予想していなかったらしく
「本気で言ってるの? ケイ」
「当たり前であろう。お主は魔王を倒すのだとあの時わらわに言って、わらわはそれを受け入れた。わらわとて目的は同じ、なら共に協力しあって何が悪い?」
 それに『人間』という生き物は誰かに縋りたいのであろう? 
「いや何というかね……。ここまで面倒みてもらって悪いかなぁって」
 ほら、これ以上いくと絶対、抜け出せないみたいな? 
「……ジョニーが心配する話ではなかろう。これはわらわの好意だ、大人しく受け取っておけ」
 好意という名の罠を。


 森は紅く染まり、燃えている。
 そこには少年、少女が立っており何やら言っているみたいだが、現状では何を言っているのか聞き取ることはできない。
 火は広がり、更に森を燃やし、森に住む動物達は逃げまとう。
 そんな状態になっていても、この少年少女はまったく今いる場から動こうとはしなかった。
 すべて燃えつきるのを待っているかのように、少年少女はただ互いを見つめているだけだったからだ。
「お主達だな! この森を勝手に燃やした二人組というのは!」
「やいやい! こんなに燃やして酸素が減るだろ!! って君達聞いているのかい!?」

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