アルバートは全身、主に額から光を放ち、ケイを襲う。
 このアルバートフラッシュは相手が光によって目がくらんだところを、アルバートが斬りつけるという卑怯技なのだが相手がケイでは、まったく通用しない。
「ん、どこ行った!?」
「……ここだ。愚か者め」
 アルバートが後ろを振り返るよりも早く、ケイの鎌の柄がアルバートの鳩尾に決まっていた。
「ぐふ。……しゅ、主役のこの俺が、やられる……ワケには……」
 鳩尾を押さえながら、アルバートは呻く。
「……お主。わらわの顔を忘れたのであるまいな?」
 ケイは地面にうずくまるアルバートに、視線を合わせるようにしゃがみ彼の目を見る。
 アルバートの目がやっとケイの姿をはっきり捉える。
「あぁ! ケイ!? ケイか! 何でこんなところにいるんだよ!!」
「それはわらわが聞きたい。だが詳しい事を聞くよりも先に……」
 と交戦中のジョニーとソフィーを見る。
 ジョニーの目は、ソフィーを見た瞬間から完全に危ない目をしており
「アハハハハ! モグラは一生土の中で永眠してなさい!!」
 ソフィーが呼び出した、モグラを何の躊躇もなくジョニーは片っ端からムチでなぎ払う。
 モグラはムチが当たって痛いのか、涙を滲ませながら地中に潜る。その姿が痛々しかった。
「ひっどぉい!! よくも可愛いモグラさんを! 絶対、許さないからね!!」
 ソフィーはぎゅっと、自分の杖を握りジョニーの鼻に向ける。
「ほう……このアタイと肉弾戦? いいわよ、そのブリブリブリ顔をボコボコボコにしてやるわよ!」
「オカマちゃんは大人しく、オカマバーにでも行ってなさいよっ!!」
 オカマVSぶりっ子の壮絶なる戦いが今、ここで繰り広げられようとしていた。
 だが
「いい加減にせい。双方」
 この戦いはケイの仲介によって終わりを迎えることになった。
 仲介といっても武力による仲介で、運の悪いジョニーはケイの一撃で気絶していた。
「いったぁいー。なんでぶつのぉー」
「そのような声を出すでない。お主らが正気に戻らなかったせいであろう。それにしても……」
 この変貌は一体何だとケイは心の中で呟く。
 記憶が確かなら、別れたのは約半年前のことだ。
「……もう返す言葉もないな」
「ん? 何ブツブツ言ってんだよケイ」
「いや、気にするな。わらわの独り言だ。それより目的はどうした?」
「ふっ。勿論忘れてないさ!! 偽者の魔王倒しも絶好調! 数日前に倒したもんなー」
「ねー、アルバート★」
「でだ、ケイ。俺たちはものすごーく大事な事に気付いたんだよ。倒すだろ?でもその後、帰る家が無いのが寂しいって事に気付いたんだよ」
「そ・れ・で、ソフィー達は二人の愛の巣を作る事にしたの★ キャ、いっちゃった★」
「ソフィー、幸せになろう……」
「アルバート……」
 また二人の世界に入りそうになるのを、ケイは無理やり止め
「では、何故森を焼く!? 焼け野原に家を作る気か?」
「ちと森が多すぎるだろ。可愛いソフィーの柔肌に虫が寄ったらどーするんだ!!」
「もうアルバートって凄く優しいんだからっ★ もうダイスキ〜」
「……しかしこの事実。あの二人が知ったらどうなる? バースは怒り狂い、お主達をタダではおかぬだろう。ロアも本気になればバース同様にタダではおかぬぞ。わらわだけではあの二人は止められぬ」
「ぐ……。ロアならいつでも相手になってやるが、バースは……」
「えー! どっちも嫌!! あの二人、意外に手加減しないんだもん!!」
「ではわらわと共に行動するか? このまま別れてお主達で行動したら、更に取り返しのつかぬことになるぞ。まだわらわといるほうがお主達にとっても得策、そうは思わぬか?」
「別に一緒に行動してもいいけどよ……つかコレは?」
 目の前に倒れるジョニーを指差す。
「ジョニーという人間だ。この人間を囮に魔物達を呼び寄せようと思ってる」
「ほー、囮か。面白いじゃねぇか……よしのった。じゃあこの勇者である俺と可愛い恋人のソフィーがこの旅を華やかにしてやるぜ!」
「もう可愛いソフィーがいれば楽しくなること間違いなしっ」
「……勝手にせい」


「えー!! この二人が同行するって!?」
「そうだ、実はこの者達も魔王倒しをしているというのでな。戦力は多いほうがいいであろう」
「宜しく頼むぜ、ジョニー。俺は剣の使い手の勇者アルバート様だ☆気軽に俺を頼ってくれていいぜ!」
「ソフィーは可愛い魔法使いよん。ほんとうはぁ、オカマちゃんと一緒なんて嫌だけどケイちゃんのお願いだしぃ、アルバートと一緒にいたいもん」
「こんのブリブリが……。アタイに喧嘩売ってんの!?」
 再び口調が変わり、戦闘態勢に入りそうになるジョニーをケイの鋭い視線が抑える。
 目が『止めろ』と言ってる。
 逆らおうにも、ケイには逆らえないという悲しい性がジョニーを苦しめた。
 頭があがらないとはこの事だ。
 子供相手に30代の男が負けるとは非常に情けない話であったが、実力差がはっきりしているので仕方が無い。
「解ったよ、解ったってば……」
 諦めがつき、ジョニーはとぼとぼと道を歩き出す。
 女になる旅がいつの間にか魔王倒しの旅に変更され、挙句の果てにはワケのわからない二人組が、旅に入ってきてジョニーの不愉快さは更にあがった。
 ジョニーは後ろを振り向かず、ずんずん進んでいた。不愉快さが拭えず、周りを見る余裕など当然無く、
「いたっ! ちょっとどこ見てんのよ!」
「あ、ごめん。つい……」
 やっと冷静さを取り戻し、ジョニーは目の前で怒る女性に謝罪した。
 キリっと強い目をした女性であった。可愛らしいという印象よりも、強気・じゃじゃ馬という印象を与えてしまうオーラがある。
「今、ただでさえイライラしてるのにぶつかってこないでよ!」
「何だい、その言い方は……。ボクは謝ったろ?」
「そうよね……ごめんなさい、つい。……ところで貴方、これからこの先に行くの?」
「そうだよ、だってこの先の町に行くんだから」
 女性はじっとジョニーの顔を見つめ
「まぁ、貴方なら特になんもないか……」
「ジョニー? どうした」
「ケイか。いや、ちょっとこの人にぶつかっただけだよ」
 三人を見て、女性はあらっと小さく声をあげる。その視線はソフィーを見つめ
「ちょっとそのコ、この先行くとき気をつけたほうがいいわよ」
「ソフィーが? どーして??」
「……この先に、ダイアナっていう女が住んでるんだけどその女の性格が最悪! 近くを歩く女を見つけては、自分と勝負しかけてくるのよ。どっちが美しいかってね。……もうあの高笑いとかすっごくむかつく! だからこの辺りの女の子からダイアナの事を、ヘビ女とかメドゥーサとかって呼ばれてんのよ。私としてはメドゥーサがお勧めね。だからそこのピンクの女の子は気をつけなさいよ。……それじゃ、私はこれで失礼するわ」
 言うだけ言うと女性は軽く手を振りながら、ジョニー達が歩いてきた道を歩いていく。
「いや〜ん、ソフィーと勝負なんてそのダイアナっていう人、おバカちゃんネ★だってソフィーが一番可愛いんだもん」
「もちろんだぜ、ソフィー。ソフィーの美しさに適う女なんてどこにもいない。ソフィーこそ、宇宙の女神! 俺のクイーン!」
「じゃあアルバートはソフィーのキングよ〜」
「……また始まったか。それにしてもその女子も解らぬ行動をするものだ。そんな事をしても何の意味もなかろう。……どうかしたかジョニー? 」
 今の話をまとめると、ダイアナという女は、身近な女を捕まえて美貌勝負をふっかけているらしい。
 そしてあの女性はジョニーを『女』として捉えず、ソフィーを『女』と捉えた。
 ソフィーは目の前でまたブリっ子を見せて、ジョニーの不快感を増大させた。
「……ほう……美貌勝負……。まぁこんなブリ娘じゃ勝ち目はないわね」
「ん? ちょっと今、何て言ったの、オカマちゃん」
「アンタには勝ち目がないって言ったのよ! そのダイアナっていう女もバカねぇ。このアタイを相手にしてないで、自分が美しいとか言っちゃって。虫唾が走るわ! こうなったら本当の、魅力ってもんを教えてあげるまでよ。それでブリ娘!」
 びっと指をソフィーに向け
「そこで女の戦いをしましょうよ。どっちが美しいか勝負よ!」
「いいわよ! ぜったい、ソフィーのほうが可愛いもん!! オカマちゃんと違って、ソフィーは女の子だし、かわゆい魔法使いなんだからね!」
「なぁにが、かわゆい魔法使いよ! あんなへたれモグラ使ってるあたりで力量が知れるわ!」
「なんですってぇー」
「なによぉー」
 森で行われなかった、二人の戦いが今ここで再び勃発した。
 ダイアナというまだ見たことの無い、女を巻き込んで。


 どうやらダイアナという女性は、中級貴族の娘らしい。ジョニー達が想像していたダイアナ像とは違い、ただの村娘ではなかった。
 お嬢様といえば聞こえはいいが、性格が最悪に悪い。
 ジョニー達の挑戦を受けるなり、ダイアナは鼻で笑い
「あら、オカマとドブスがワタクシに適うと思っていますの? ですって!! くぅー! あのヘビ女! ヘビ女!!」
 ジョニーは地団駄を踏み、近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばしていた。
「ソフィーも許せない!! ソフィーはドブスなんかじゃないもん! かわゆいもん!」
「そうだともソフィー! 何でこの可愛さに気付かないんだ!? ……あのダイアナも結構べっぴんさんなんだけどなぁ……」
 きぃっとジョニーに睨みつけられ、アルバートは
「いや! 顔だけだぞ顔! 性格は最悪だって!! なっ」
「あのような女子が、存在するとは……。褒められた性格ではない……今回ばかりは思い切りやっても構わぬぞ」
「当たり前よ!」
「もちろん! ボコボコにしちゃうんだから!」
 二人は目の前のクローゼットを勢いよく開ける。大きなクローゼットの中には数々のドレスが、入っておりダイアナいわく
『ハンディよ。これを着てワタクシと勝負致しましょう』らしい。
「はん! こんな安物で勝負ですって? この中級のくせに!!」
「どれもおばさんくさいー。ソフィーのほうが若くて、お肌ピチピチだからこんなおばさんドレスなんか着れないもん」
「……あら珍しくアタイと気があったわね。ブリ娘」
「めっずらしぃー、オカマちゃんと気があうなんて〜。だってソフィーのほうが可愛いもん」
「そこはどうでもいいわよ。ようはあのヘビよヘビ!! あの鼻をへし折らないと気がすまないわ!」
 こんなドレスに身を包まなくても十分勝てると、ジョニーは叫ぶ。
「ブリ娘……今回はまず休戦よ。まずはあのヘビから落とす」
「もう、今回だけだからねオカマちゃん」


「あらぁ〜、貴方達さっきの姿のままじゃない。どうしたのかしら?せっかくのドレスも顔がそんなのだから合わなかったのかしら? オホホホホ」
 飽きもせず、嫌味が言えるものだと思いながら
「はん。アタイ達には趣味の悪いドレスは合わないのよ! ねぇソフィー」
「そうよねぇ、オカマちゃん」
 ウフフ、オホホとソフィーとジョニーはタッグを組み、ダイアナを睨み返す。
 正直このタッグ自体、恐怖以外のなにものでもないがそれよりもこの女達、一部男も含まれるが、この戦いこそが恐怖の根源であった。
 まさにこの三人の頭の上では黒い渦がグルグルと巻いている。
 逆に、蚊帳の外であるケイとアルバートはこの戦いを遠巻きに眺めながらも、この勝負、どちらに軍配があがるのか興味津々であった。
「あら、趣味が悪いとは言ってくれるわね……。このワタクシと張り合うおつもり?」
「張り合うも何も、元々アタイ達のほうが素晴らしいに決まってるデショ。だってこのアタイの完璧なる美貌と……」
「そしてソフィーの可愛さがあればぁ、こんなヘビ女ちゃんに負けないもん。というよりも圧勝?」
 バチリ。
「言ってくれるじゃありませんの。オカマにドブスが」
 バチリ。
「なぁなぁ、ケイ。あの三人むっちゃ怖いぞ……」
 始めて女の戦いを間近で見、恐怖を覚えるアルバートは少し顔を引きつらせながらケイに話しかける。
「確かに、周りだけ空気が違う……。にしてもこの後どうする気か……」
 アルバートほど恐怖に顔が引きつっていないケイは、じっと三人を見つめながら呟く。
 三人の戦いはだんだんエスカレートしていき、険悪なムードが終始辺りを包んでいた。嫌味の言い合いが度を増し、口の暴力から本当の暴力に展開していくのにそう時間はかからなかった。
「面白い! このアタイ達に力で勝てると思っているの?」
「このワタクシの財力をなめないでほしいわ!」
「魔法できる人と、できない人の差を教えてあげるんだからっ」
 この日、ダイアナ邸では大地震があったと後の人間は語る。
 その際、女達の熱き戦いが繰り広げられ、そしてその後も女と男の口喧嘩が絶えないとも言う。
「アンタが派手に魔法かますからいけないんでしょうが!」
「何よぉ! ソフィーの魔法にケチつけないでよね! それよりぃ、オカマちゃんのムチのほうがぜぇーったいに危ないもん!!」
「アタイのコントロールは完璧よ! ブリ娘の全員を巻き込む、土魔法よりはマシよ!」
「ひっどーい! アルバートとケイちゃんは何にも言わないもん!」
「あの二人がそう言うわけないでしょうが! 特にアルバート! あの金髪色ボケがブリ娘に言うと思ってるの!?」
「ちょっとアルバートのこと悪く言ったら許さない! もうやっぱりここでどっちが一番いいか勝負よ」
「いいわよ……やっぱりアタイとアンタは戦うっていう宿命なのね……」
「……ケイ、頼む。止めてくれ、あの二人の戦いに俺はついていけない!! 俺のマイラブソフィーが!」
「落ち着けアルバート。わらわとてこの二人がここまでいくとは思ってもみなかった……」
 まぁ、今回はダイアナという娘が火種でここまで発展したから、今度あのような娘にさえ会わなければここまではならないだろうとケイは思い、再び目の前で戦いを繰り広げる仲間二人に熱い説教を与えることにした。


 兎にも角にも彼ら四人は、ダイアナ邸を離れ港町にいる。
 ケイが言うには次の大陸に渡り、偽の魔王を倒すらしい。偽魔王は各地に散らばっており、大陸を移動しない限り、倒しきれないからだ。
「港町か……。当初の目的でもまさか、大陸を越えるなんて考えもいなかったし。何ていうかこういうのって案外いいね……っていないじゃん!!」
 何、一人ぶつぶつと大陸越えの良さについて話していたかと思うと、ジョニーは途端に恥ずかしくなった。
「何でこんな時に限って誰もいないのさ!! もう、いいや。一人ライフ満喫してやるんだから」
 彼が女の体を手に入れるという旅に出てから、それなりには日はたっているがジョニーにとってはあっという間という感覚が大きい。
 ケイという幼女に殺されかけ、大法螺をふいたせいで目的が偽魔王倒しになってしまった。
 アルバートとソフィーというバカップルとの出会い。
 ほんの少し前にはダイアナという、ヘビ女に会い、ソフィーと派手に大喧嘩。
「……もしかしてボクの寿命、十年くらい縮まってないだろうね……」
 ボクの心を癒してくれるのは海だけかと、ジョニーはふらふら堤防に足を向けた。
「……海ってこんな大きいんだね……あぁ……。海……」
 ふと海の青とは違う、色がジョニーの視界に入ってくる。
 銀だ。
 銀色の髪をなびかせて女性が立っている。後ろ姿のせいで顔はわからないが、ジョニーの本能がこう告げる。
「ボクの理想っ!!」
 ジョニーは駆け出し、無理やりその女性を自分の方向に向かせた。

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