「 一体、何勝手な事言ってんのさ! 何でオレが、旅についていかなきゃなんないのさ!」
「お願い! 頼む! ボクには君が必要なんだ! 君しか見えない! 君しかいない!!」
 一見、熱烈な告白に思えるが、図体のでかいオカマが華奢な少年の腰にへばりついて懇願してる姿はなんと言うか哀れというより
「キモイ! 離れろ!!」
「いやだぁー! ボクは目的の為なら絶対離すもんかぁ!  これであのケイ達の苦痛な旅に華が入る!」
「……今なんだって?」
「苦痛な旅に華が入る!」
「その前だよ! 誰だって?」
「ケイだよ。小さい女の子なのにすっごく強い子。ホント、強いんだよ……鎌振り回すし」
 ふと少年はもがく事を止め
「ねぇ離して。離しても逃げないであげるから。ほら早く」
「……本当?」
「ここで嘘ついてもしょうがないよ。ちょっと気になることあったし」
 ジョニーは素直に少年から離れ、そのかわり少年が逃げ出さないようにじっと見続ける。
「……ねぇ、ケイって子と二人で旅してるの?」
「いーや、他にアルバートっていうすっごい元気な少年と、……ソフィーっていうブリブリ娘がいる」
 ソフィーの部分だけ異様に殺気がこもっていることを少年は特に気にせず、むしろその殺気に同意しながら
「へぇ……四人で旅してるんだ」
「そうだよ、勝手に偽魔王倒しするとかケイが言っちゃってさ……。あ、ボクの本当の目的は女の身体を手に入れることなんだけどね。目指せ、有名女優…その道もなんか遠くなっちゃった…。でも! 君みたいなまさに! ボクの理想とする姿が目の前にいてボクは嬉しくてしょうがないよ!!」
「あ、そう……」
 少年の興味はジョニーの目的よりも残りの三人の仲間の存在。
「そ・れ・で……お願いだよ! 是非、ボク達の旅に付き合って! ほら、君凄く強いから絶対、敵にあっても楽勝だと思うんだよ! ね! ねっ!」
 少年は考えをめぐらす。
 話を聞く限り、残りの三人は間違いなく自分の知り合いである。
 何故、三人が揃って行動を共にしているのか興味があった。
 だが、三人のうちケイはまだしも残りの二人は会いたくはなかった。
 はっきり言って、少年はあの二人特にアルバートを毛嫌いしており、寄ってくる度にうっとおしいという感情を抱いていた。
「もうボクの最後の命綱なんだ! この綱を離すなんて、ボクにはできない!」
「だからさ……」
「そこにいるのはジョニーか!?」
「あ、皆。ちょうどよかった……」
 三人が姿を現した時、少年は特に表情を変えはしなかったがやはり目の前にいたのは自分の知り合いであった。
 よく知っている。知らない筈もない。
「あぁ!! お前はバー……ぐふぇっ!!?」
 ケイの高速の攻撃によって、アルバートは少年の名前を叫ぶ前に地面に沈んだ。
「いやぁっ! アルバート!!」
「ソ、ソフィー……。先に逝ってごめんちょ……」
「ごめんちょなんて可愛いこと、ソフィーの為に言わないでっ!! いやよ……アルバートのいない世界なんてソフィーにとっては、生クリームのないショートケーキと同じなんだもん! アルバートが逝くならソフィーも一緒に逝くんだからっ!」
「ソフィー……愛してる」
「アルバート、ソフィーも……」
「何、あのウザイの」
 ジョニーに尋ねるように言いつつ、自分にも問いかけるように言う。
 半年前の彼らも非常に、うっとおしかったのだがそのうっとおしさが更に増してでの再会に、少年の怒りはふつふつこみ上げ
「ウザイ。あいつ等、マジうざいんだけど……」
「その気持ちはよーく解る。あの……ブリブリ娘がね……。ちょっと! いつまでラブってんのよ! ブリ娘が!! 調子こいてんじゃないわよ!!」
 ジョニーの沸点も早く、少年からあっさり離れソフィーの元へ目掛け走り出してしまう。
 ケイはジョニーが離れたことを確認すると少年に近寄り、
「……バース、久しぶりだな」
 少年……バースは知らない振りをするのをやめ、
「ケイもね……てかアレ、本当に何? 昔よりも凄くむかつくんだけどあいつ等」
「わらわに聞くな。わらわにもあの心境の変化はわからぬ。驚いたであろう? こう四人も揃うと」
「そうだね、本当ならロアに会いたかったけど」
「ロアか……今頃何をしているのか。案外、近くにいてな」
「それはいいね、それだったらオレもロアに早く会いたいよ。あの二人に比べてね」
 あの二人とはアルバートとソフィーのことだが、バースはまったくあの二人に見向きもしない。
「あ、それでとりあえず色々この話聞いてもいい? 何か考えがあるんでしょ?」
「うむ。その通りだ。ジョニーはソフィーのことで頭がいっぱいで、我ら達のほうには見向きもしていないな……都合がいいな。ではさっそく説明しよう、バース」


「はぁ……はぁ……。あ、ところでさっきの話だけど……」
 ジョニーが再びバースに向き合ったのは、それから約十分後であった。
 ソフィーとの決着のつかない戦いを切り上げ、この状態だからこそバースという『華』が必要なのだと改めて気付き、交渉をすることにしたのだ。
「一緒に旅がしたいって話? ……いいよ、別に付き合ってあげても」
「ほ、本当かい!?」
「うん、ちょっと気が変わったから……。ところでまだきちんと名前聞いてないんだけど。オカマって呼んでいいなら、ずっとそう呼び続けてあげるけど?」
「あ! 駄目駄目!! ボクはジョニーだ! ジョニー! で、ボクの理想である君は? 是非ともその口からお名前を!!」
「……。オレはバース。ふーん、ジョニーっていうんだ。もう他の三人はケイから聞いたからいいや」
「うむ。わらわがすでに話はつけたぞ」
「いやぁん。バースちゃん、よろしく〜★」
「フハハハハ、いつでも頼れよ! バース! 俺がいれば百人力だぜ!!」
「素敵★☆ アルバート!」
「ソフィー……俺のハニー」
 バースはもちろん、相手にすることなく
「新大陸に行くために船に乗るんじゃないの? いいの? こんなにゆっくりしてて」
「あっ、そうだよね。船だってちゃんと時間決まってるしね」
 ジョニーは自分達の乗る船を見上げる。
 バースとの出会いですっかり新大陸のことを忘れていたが、船を見ると自分は大陸を越えるのだと自覚する。
 大陸越えは楽しみかもしれないが、目的は嬉しくない。
 しかし旅にバースという華が入って、ジョニーはいつもよりも満足げであったのだった。


 船に乗り込み、ケイに異変が訪れたのは数十分後。
「……ケイ? 大丈夫? あんまり顔色よくないけど……」
「心配無用……わらわのことはほっておいても構わぬぞ」
「うん、まぁなんていうか……。少なくとも船内で寝てるより、甲板に出て外の風に当たってるほうがいいと思うけどなぁ……。他の三人も甲板にいるみたいだし」
「こ、心得た」
 起き上がった瞬間にケイの体がぐらりと揺れ、ジョニーは咄嗟にケイの体を支える。
「すまぬ」
「いや……」
 ケイが乗り物に弱いなどと微塵にも思わなかったジョニーにとって、このケイの弱りようは異常にしか見えなかった。
 常に隙を見せない印象で植え付けられていたものが、この船酔いという事実によって印象が少し壊された。
 今まで、ケイに絶対的恐怖を覚えていたジョニーにとって今のケイはまったく恐怖の対象には見えなった。むしろ今なら勝てるかもしれないという考えが頭の中にあり、うまくいけば……。
 ここまで考えてジョニーは頭を振る。
――これは幾らなんでも弱みに付け込みすぎだ。でも、今がある意味チャンスなような。
 良心と戦いつつも、ジョニーはケイを連れ甲板に連れ出す。
「アルバート、この愛はこの船が突き進むように強く永遠なのね」
「あぁ、勿論だともソフィー。フォーエバーだ!! 例え何があっても君を離さない」
「この船が沈んでも、一緒よ!」
「縁起が悪いんだよ」
 バースは怒りに任せ二人に足払いをかけ、二人は見事にすっ転ぶ。
「何するんだ! 折角船の上で、ソフィーと愛を語り合っていたのに……。あっ、バースも混ぜてほしいんだなぁ? もうずるいよ、オレも一緒にやりたい〜って!」
 バースが本気でアルバートに蹴りを入れたのは、言葉と同時であった。
「……ウザイ」
「いやーっ!! アルバートの顔が赤くなってる! まるでタヌキみたいよ!!」
「おう……ソフィー。愛は痛いぜ」
「アルバート……ソフィーの愛は甘いよ★」
「ハニー、俺の愛しのエンジェル」
「もうっ! バースちゃんがアルバートを蹴るからいけないんだから!」
「五月蝿いよ、この馬鹿が悪いんだろ」
「ひっどぉーい! バースちゃんのバ……きゃあっ!?」
 バカという前にソフィーの体が再び大きくよろめく。船自体が大きく揺れていた。どうやら何かが船にぶつかったらしい。
「うっ……」
 ただでさえ揺れに弱くなっているケイは、この揺れで一気に限界付近まで達していた。
「ケイ! ふんばれ! 頑張れ!! でも一体、何があったっていうんだ、本当に何かにぶつかったみたいだ」
「ジョニー……何かじゃない。敵だ、気配がする」
 バースは真剣な目つきで海の周りを見渡すが、それらしい影は見えない。
「何も見えないよ?」
「いや……バースの言う通り、敵の仕業だ……」
「ケイ? ちょっと無理したら駄目だって」
「このままだと船を、沈められるぞ……」
 鎌を構えようとケイはするが足元がおぼつかない。ふらりとしながら敵を探そうと船の端に近づいたとき、再び船に大きな衝撃が伝わった。
「っ!! け、ケイ!」
 誰よりも体重が軽くそして体調の悪かったケイはこの衝撃で、鎌だけを船に残し体は海に落ちてしまう。
「ケイ!! ケイぃぃっ!!」

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