「おぉー凄いねぇ。あの人が全部やっちゃったよ!!」
 ジョニーは感心するように黒髪の青年を見上げる。
 青年は空に浮かんでいたままだったが敵の気配が完全に消えたと確認すると、ジョニー達のいる船の甲板にゆっくり降りる。
 降りる立ち振る舞いが優雅であった。
「君達は大丈夫だったかい?」
「うむ、それより本当に助かったぞ旅の者。礼を言うぞ」
「いや私は当然のことをしたまでだよ。船を沈められて死人を出すわけにはいかなかったからね」
 微笑みながら返す青年の、動作一つ一つが丁寧で、口調も柔らかいを部分を見てジョニーはこの青年は紳士だと確信した。
「でも空を飛ぶ人なんて初めて見たよ〜。それはどういうカラクリなんだい?」
「ジョニー、初対面の者にむかって……」
「構わないよ、気になったのだろう? 空を飛べる理由はね、私が風の魔法を使っているからだよ」
「じゃあ風の属性ってことか! 便利だねぇ、風って。ひょいひょい飛べちゃって。そうやって飛べるならお金をかけずに色んなところに移動できるし」
「あはは、随分せこいことを言うね。でも飛ぶということはそんなに容易なことではないよ。一歩コントロールを間違えると海に叩き落されたりもするし、根本的な話、魔力が程々ないと飛ぶ力すらないよ」
 風の力を使って飛ぶとはそういうものなのかと納得する。以前、ケイにも魔法については教えてもらっていたが、青年の説明は更に細かい一部分である。
「……にしてもなに故に、お主は海の上を飛んでいたのだ?」
「ん、それはだね……」
 青年が答えようとした時、背後から突き刺すような視線を感じ青年はジョニーにわからないように、その視線の主を見る。
 ……アルバートがじっと青年を見つめている。
 その目は嫌うような視線であり、決して青年から目を離そうとはしない。
「まぁそれは後にしないかい? それよりも君は体を拭いたほうがいいよ、そのままだと風邪を引く。船員からタオルを取ってきて貰うように頼んできてあげるよ」
 青年はそう言い、踵を返す。そしてアルバートの前を通っても青年は何の反応もしなかった。
 それはジョニーがこちらを見ていたせいであり、ジョニーが視線を外した瞬間にアルバートに向けて突き刺す視線を返したのであった。


 敵の襲来から数時間後。
 再び青年は一人、甲板にあがっていた。夜の月を眺めに来たのではなく
「……待っておったぞロア」
「やぁケイ、バース。本当に久しいね」
二人から呼び出された為であった。
 甲板にはこの三人しかおらず、海は先ほどの襲来とうって変わって静かだ。
「密かに私の船室に置かれた手紙で、君達の今の状況は知ったよ。それにしても最初は驚いたよ。ケイが目の前に落ちてくるのだから。体は大丈夫? きちんと体は拭いたかい? あと船酔いは……」
 ケイの青白い顔を見て、無理のようだねとぼそっと呟く。
「それでロア。ロアはオレ達と一緒に行くよね? もうここまで揃っててロアがいないなんておかしいし。
それにあいつ等ウザイ、耐えらんないよ。いつ本気で手出すか判らないし」
「それはアルバートとソフィーのことだね? 彼らは彼らの道を歩いているんだよ、だから私達にはきっと理解しにくいだけだよ。うん、そうだね……なら私も共に同行するべきかな? 先ほどの戦いを見て思ったが、あれでは次の戦いで苦労するよ? でも、皆が無事でよかった」
「それでロアはどうして飛んでたのさ? 海の上を人が飛んでたら目立つよ?」
 再び問われ、ロアはやや伏せ目がちになりながら
「……この船に乗り遅れたからだよ」
「えっ」
「……真か?」
「嘘、言ってどうするんだい。あの港町でちょっと色々していたら、船が出て行ってしまったんだよ。今まで船に乗った事がなかったから、せめて一度は乗っておこうと思っていたのにね」
「もうロアって変なところ抜けてるんだら。そう思わない? ケイ」
「うむそうだな。……でもロアというまとめ役がいてわらわは助かる。わらわだけでは全てをまとめられそうにないからな」
 特にジョニーとソフィーの喧嘩、アルバートとバースの喧嘩はと続ける。
「ならできる限りのことを私はやるよ。まず、その囮であるジョニーという人に挨拶をしてこよう。まだ彼についてはよく把握できてはいないが、話し合いには素直に応じてくれそうだ」
 そしてケイの話によるとジョニーは今船室にいるらしい。
 ロアは一旦、二人と別れジョニーがいる船室に、思惑を巡らせながら向っていた。
 皆と離れ一人で旅を始めるようになってから、人間とは一体どのような考えを持ち仕草をするのかロアはひっそりと観察をしていた。
 仮とはいえ、今は人間の姿だ。訳あって人間の世界に暫くは生活をするのだから、少しは人間らしい振る舞いをしなければいけないだろう。だからロアは少しづつ印象を変えようと努力した。
 魔王としての本性を出さないように自分を抑え、同時に心優しい男を演じていればよいのだと彼は知る。
 心優しければ優しいほど、皆信頼する。
 それが人間の世界に約半年ほどいてわかった結果だった。
 気付くと船室の前に着き、ロアは迷惑にならないほどの音でノックをし、ジョニーの了解を得てから船室に入る。
「……こんばんは、今少しいいかな?」
「あ、確かロアさん? ボクに何か?」
「いや、私のことはロアで構わないよ。私のほうが貴方よりも年下のようだから」
「……あぁ、まぁ一応。それでロアはボクになんか用なのかい?」
「実はさっき仲間のケイとバースから色々詳しい話を聞いたんだ。皆は魔王を討伐する旅をしているのだろう? それで私も少しは力になれればいいと思って……。それでお願いなんだが、私もその旅に加えてもらっても構わないかい?」
「ほ、本当に!?」
「駄目かい?」
「まさかとんでもない! ロアみたいな紳士がパーティーにいてくれると有難いね!」
 きっと彼はフォロー上手だろうし、うまく丸め込めばきっと女の体になるボクの目的を手伝ってくれる! とジョニーは頭の中で考え、そのような答えを出した。
「でも自分の目的は? そっちはいいのかい?」
 態々自分から墓穴を掘るようなことを言ったが、ジョニーは何も気にしなかった。それはロアという人物が人の為に、行動するというタイプであると判断し逆に追い返すようなことを言えば絶対に食いついてくると思っていたからだ。
「私の用事は平気だよ。そんな事言わないで、私にもお手伝いをさせてくれないかな?」
「そうか、ならよかったなぁ。もちろん、そんな事言ってもらって追い返せないよ。改めて宜しく頼むよ、ロア」
「こちらこそ、宜しくジョニー」
 二人は軽い握手を交わした。
 二人が握手を交わした同時刻、甲板にいたケイとバースは最後の仲間が揃い、自分達の目的達成が近くなったと喜んでいた。
 船室にいたアルバートとソフィーは共に愛を語らいながら、甘いケーキを食べていた。


 新たな大陸、新たな街に入るなり六人を歓迎したのは大きな観覧車。
「遊園地だね」
「この街には遊園地があるようだね。まさか船から降りたらいきなり遊園地だからね」
「いやぁぁ〜ん、可愛いvv
 ソフィーは風船を配るウサギの着ぐるみに心奪われ、着ぐるみのウサギに駆け寄りピンクの風船を貰っていた。
「ありがとう〜ウサギさん★ もう可愛いから、ソフィーすっごくダイスキ」
「ノォ――っ!! ソフィー! 俺のソフィーがウサギに心奪われてる!? 俺の魅力が足らないせいか!? 俺に求められるのはあのウサギの可愛さか! ピンクの耳か!?」
「違うわアルバート! ソフィーの一番はいつでもアルバートよ、ウサギちゃんもとぉっても可愛いケド、アルバートの素晴らしさに比べたらチョコレートケーキのチョコレートがないようなものなの!」
「ふっ、俺はソフィーの為にチョコになる。バレンタインの時は等身大の俺チョコを君に贈るよ」
「アルバート……ソフィーそんな大事なチョコ食べられないよ」
「キモイしウザイ」
 二人の背後でばっさりとバースが言い切る。この二人の独自の世界に耐えられないようでバースはロアに
「さっさと次の所に行くんでしょう?」
「いや私に権限は……」
「ちょい待ち。バース、折角の遊園地なんだよ! 絶叫なんだよ! 絶叫! ここは絶叫に乗らなきゃ駄目じゃないか! そう絶叫はいい訓練になるんだよぉー」
「訓練とな? 真かジョニー」
 訓練という言葉に食いついてきたのはケイだ。ケイは遊園地に寄るのはどちらかというと反対の考えであり、ジョニーは咄嗟に
「そ、そうさ。叫ぶ事によって体力と気合が鍛えられ、精神力があがるのさ」
「そうなのか!? あのような施設にはそんな意味が……初めて知ったぞ」
 もちろんそんなの嘘だ。
 ただたんにジョニーは絶叫系の乗り物に乗りたかっただけである。
 山奥の田舎で今まで生きていたジョニーにとって、遊園地は人の話でしか聞いたことのない夢の国であった。
 そして幼きジョニー少年は何度も遊園地で遊ぶ自分の姿を夢見て、その夢が何十年越えてやっと叶おうとしていたのだ。
「行こう、ボク達の夢の国へ!」
「ちょっと何勝手なこと言ってんのさ。て、オレの話聞いてないだろ!?」
 そう、まったく聞いていない。すでに遊園地に行く気満々の四人はそれぞれの思いを寄せていた。
「とにかく落ち着けバース。これはある意味チャンスかもしれない。私はこの半年、人について観察をしてきたが未だに自信が無い。果たして自分は人らしく振舞っているのか、確かめたい。だからその娯楽施設へ行こう。娯楽を前にすると人はどう変わるのか私は見てみたい、まだ娯楽を前にした場合の人の心の変化を把握しきっていない」
 それにバースと、ロアは言葉を続け前を指差す。
「……もう周りはすでに行く気満々で、私達の話なんて聞いていないよ。だからこう、人がどうとか言っていられるんだけどね」
 人差し指をたてて、笑みを浮かべながら言った。


「ではこれは何を鍛える乗り物なのだ?」
 ケイは目の前で大きく回転される船を見上げて問う。
 これは船の形をした乗り物に乗客が横一列に並んで座り、そのまま宙まであがり落ちるという一種の振り子に近いものであった。
「これは上にあがって、下に落ちるときの浮遊感を体験することによって己の心の弱さに打ち勝つというものさ! 勿論ケイは乗るだろう!」
「わ、わらわは……」
 乗り物に弱いケイは正直なところ、この船に乗りたくはなかった。
 しかしジョニーの話によれば乗ることによって、己の心の弱さに打ち勝つ事ができるらしい。なら乗り物の弱さに打ち勝てるのかもしれない。そしてジョニーの用心棒でいると言ってしまった手前、自分が乗らずに悠々と待っているわけにもいかない。
「ケイ、無理はしないほうが……」
「否。このまま乗らぬわけにはいかぬ。わらわはあれに乗るぞ」
「きっまり〜★ じゃあケイはボクと一緒に乗ろうか! てか他の皆も乗るんでしょ? ほら早く早く! 六人分開いてるから皆、隣で座れるよー」
 ジョニーははしゃぎながら席をバンバン叩きながら皆を誘導する。
 アルバートとソフィーは元から遊園地という場所に興奮をしていたし、ケイはジョニーの嘘を信じここは訓練所なのだと自分に言い聞かせつつ、果敢に乗り物にチャレンジしようとしている。
 逆にバースとロアは他の四人比べると、そこまで楽しみではなく
「はぁ……なんでオレこんなことしてんだろ」
「仕方ないよ。それでこの乗り物はそんなに楽しいものかな? 浮遊感を味わいたいならもっと高いところから落ちたらいいと思うんだけどね……まぁ死ぬか」
 ジョニーがいないところでは、さらりと本音を言うロア。
 こうして遊園地の第一ラウンドは今、幕を開けた。


 だがこの第一ラウンドで、乗り物に弱いケイは早々に負ける。
 そこで休めばいいものの、ジョニーのいう『訓練』をしなければいけないのだと聞かず、ジョニーと共に絶叫マシーン三連発に果敢にチャレンジすることになる。
 アルバートはロアが加入してから、異様に血が騒いでいたのか突如『勝負だ! 』と皆の前で叫び困らせた。
 ロアとしてはアルバートを相手にする気は毛頭ないが、これ以上ギャーギャー騒がれて面倒なことなるだろうと察し、『さっさとするぞ』という視線を送り二人は遊園地の中に消えていった。
 残されたソフィーはバースの腕を掴んで『さぁ行こう、バースちゃん★』などといい始め、バースにとってはいい迷惑であった。しかしアルバートよりかはマシかもしれない、なら多少は我慢してやってもいいといいのではという寛容な気持ちになり、ソフィーに着いて行くことにした。


 ソフィーが目を輝かせてある看板を見ている。
「キャー! お化け屋敷だって! バースちゃん! 行こうよ! ねぇ、ねぇ!」
「はぁ? お化け屋敷だって。そんなつまらないのに入ってどうするのさ。下らない」
「えー、そんなことないもん! あっ、バースちゃん怖いんだぁ?」
 ソフィーは、うふっと可愛い笑みを浮かべた。

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