『私の意見は無視かい……? そしてその流れでいく場合、お前が負けたとしたら私は何か得をすることでもあるのか?』
『ふっ、俺が負ける? ありえねぇよんなこと! 俺はいつでも勝者だぜっ!!』
 これが勝負の前の話になる。
 そして、今現在の時間に話を移すとロアはアルバートに圧勝し、アルバートは一人叫んでいる。
「うおぉぉぉ、負けたぁー!! 何故だ! 何故負けたんだ!?」
「……これはこれで面倒だな」
「こ、これは俺が勝ちをワザワザ譲ってやったのさ。ほら、勇者たるもの他の奴にも勝利を譲らないといけないだろう?今度は俺が華麗に勝ちを決める!!」
「もう好きにしてくれ」
 ロアはこう思う。
 ただ安息だけくれればいいと。
 ロアがひっそり助けを求めるように、バースやケイも同様にひっそり助けを求めていた。
 お化け屋敷を何とか脱出し、もう振り回されてなるものかと決意を固めたバースに、訪れた次の試練はコーヒーカップであった。
 どうしてこうもソフィーは、ポピュラーなアトラクションに挑戦したがるのか……それはよく判らないがソフィーはどうしても乗りたいと騒ぎ始めた。
 特別、三半規管が弱いというわけでもなく、むしろ強いバースとしてはコーヒーカップなど子供の遊びに過ぎなかった。その気持ちは変わることはない。
 だが、
「キャー!! グルグル回って楽しぃーvv 止まんない〜、もっともっと★」
 ソフィーとバースのカップだけ、他のカップよりも異様に回転しており周りの客から見れば、気持ち悪くなるほどの回転である。
「ちょっと、なに左回転ばかりしてんのさ! オレは右回転がいいんだよ!」
「あっ! 何するのー! 折角ソフィーがまわしてるのにぃ、バースちゃんの意地悪!!」
「何が意地悪だよ! お前、勝手すぎなんだよ!!」
「勝手じゃないもん! それに男のコは女のコをエスコートするんだよ!?」
「はぁ!? エスコート? バカな事を言うのも大概にしたら!? オレがお前をエスコートするわけないじゃないか!!」
「ひっどいー。アルバートはしてくれるもん!!」
「アレと一緒にするなぁっ!」
 このような二人の悲しい喧嘩が行われる一方、ケイは酔いの辛さに悪戦苦闘していた。
 ジョニーの絶叫アトラクション祭りは終わりを告げ、流石にもう何もないと思っていた矢先、ふとジョニーは特別な眼鏡をかけることによって映像が立体的に見えるという、臨場体験のアトラクションに心ときめき、ケイを引き連れ入り込んだのだった。
 こうしてケイの酔いに、臨場体験というトドメがさされ更にぐったりしながらも耐え切った。ハイになったジョニーはそんなケイの様子などお構い無しに次々と乗り物に乗り続け、まるでケイにとって彼は悪魔のようであったが、ケイにはそんな事を思う暇もなく酔いに耐えるのに必死であった。
 トイレに駆け込むなどという失態は、彼女の自尊心が許さなかった。これしきの乗り物如きと考えていたので、意地でもトイレに行くということはしなかったからである。
 だがそのせいで、限界は近くこれ以上乗ることは不可能であったが……。


 夜の遊園地といえば恐らく、パレードや観覧車であろう。
 しかしパレードを見るには客が多く、なら観覧車に乗るほうが落ち着くというので六人は観覧車に乗っていた。
 別に待ち合わせをしていたというわけではない。
 まったくの偶然である。
 しかし観覧車というと、カップルが楽しむ乗り物の代名詞でありそこにカップルでも何でもない。
 組み合わせ……男と男・男と幼女と、乗るには不思議な組み合わせであった。
 故に六人の思惑は様々であり、決して楽しいとは言えなかった。
 ピンクのゴンドラの中にはカップルのためのサービスであろう、ラブソングが終始流れムードを作るにはもってこいであった。
 その中に、男女の年など関係なく、中にいるとしよう。そうしたら少しくらいはいいムードになってもいいはずである。
 例えば、険悪の仲から改善されるなど多少の効果はあってもいい筈だ。逆に更に険悪になるという可能性もあるのだが。
 曲は険悪なムードにする気は満更なく、その味方をするように夜景は美しく、他のゴンドラのカップル達は今頃いちゃついてるに違いない。
「ケイ、見てごらんよ。凄く外が綺麗だよ……って」
 向かい側の席を見て、ジョニーは叫ぶ。
「どうしていないんだよぉぉぉっ! ちくしょうっ!!」
 理由は実に簡単であり、ケイの体力の限界がついに達したということだ。
 ジョニーも一度は乗ってみたかった観覧車を前にして、突然乗れないとケイに言われ周りから同情の視線を貰いながら、観覧車に乗ったのは数分前のこと。
「うう……あんまりじゃないか……男一人で観覧車……。せめて誰かと一緒に乗りたかったよぉ」
 あまりにも憐れだったので、他にも自分と同じような境遇を受けた男はいないものかと、ジョニーは辺りを見渡す。
 しかし周りにいるのはカップルのみで、皆が同じようにいちゃついている。
「ふっ……皆仲のいいことで。もうアタイ、嫉妬しちゃいそう。そう、嫉妬しすぎて……ぶっ壊したくなるくらいね★」


 これはとあるゴンドラ。
 このゴンドラの中では一組のカップルが愛を確かめていた。
「もう、やっくん〜vv もっとルリルリの傍にいてよん」
「アハハ、ルリルリったら甘えん坊さんだなぁ。でも可愛いルリルリの為なら、俺はいつでも傍にいるぜ☆」
「うれぴー。ルリルリも、やっくんの傍にずうーっといたいなぁ。だってねルリルリ、やっくんのこと大好きだもん。きゃっ、はずかちぃ」
「照れるなって。俺も同じさルリルリvv」
「やっくん……」
「ルリルリ……」
「……ちゅーして、やっくん。ルリルリ達、ラブラブだからできるよね?」
「あ、あぁ……ここで初めてのちゅーか。ドキドキ……わぁぁあっ!!」
「やっくん!? どうしたのやっくん! まるで未知の生物にあったような顔をして!!」
 やっくんという男はわなわなと体を震わし、ルリルリという女の後ろを指差す。
 後ろにはただの夜景しかない筈なのに、一体何を怯えているのだろう。
 そう思いながら、ルリルリは後ろを振り向き、そしてやっくんと同じような顔になった。
「きゃぁっ!! 何、なに!?」
「おほほほほほほほ……随分、お楽しみだったようね。アタイ、ずっと見てたのよ」
 外のガラスにへばりついて喋るジョニーの姿は、恐怖としかいいようがなかった。
 何故、こんな危険な場に人がいるのだろうという考えよりも、その表情が怖かった。
「でもね、アタイはバカップルが、だいっきらいなのよ……。そう、バカップルはこの世から消えればいいのよぉっ!! 」
 ムチでガンガン、ゴンドラのガラスを叩きだし、二人の恐怖は最高潮にまであがった。
「ま、ママぁぁっ! 怖いよぉ、たすけてぇ!! ママー!!」
「げ……こいつマザコン!?」
「ルリルリー! たちゅけてよぉー!!」
「ウザイ! 寄るんじゃないわよマザコン! あんたみたいなマザコン、大っ嫌い!!」
 さっきまでラブラブだった二人が、突如として険悪になりジョニーとしては大満足の結果である。
「あらぁ、別れるの? 残念ねぇ、でもアタイとしては最高よん。そう、これからショータイムの始まりよ! 名づけて、アタイの華麗なる日々〜第二幕バカップル撲滅に咲く佳麗な大女優! 覚悟なさい、この世のバカップル達めっ!」
 ムチを器用に使い、ゴンドラを移動するジョニーはまるでどこかの探検家のようである。
 高度百mをまったく恐怖と思わず、進む姿は勇ましい以外の何者でもない。
「アハハハハハ、アタイには悲鳴が聞こえるわ。このアタイに喧嘩を売るからよ。うふふふふふ、もっとたぁっぷり鳴かせてあげるから☆」


 バースはゴンドラの中から、ジョニーの勇姿らしきものをじっと見ていた。
 あの姿はどうだろう? 
 魔王である自分よりもはるかに、めちゃくちゃではないか。
 人間に遅れをとっていいのか? いやそれは駄目であろう。
「……ば、バースちゃん?」
 暴れてもいいのではないのか?
 誰かが心の中でひっそり囁く。
 そう、自分は我慢をし続けたと思う。ソフィーの我侭に今まで付き合ってきたのだからそろそろ楽になってもいいような気がする。
 ソフィーと気が合わないくせによくここまでキレずにこれたものだと自分を褒めてやりたい。
 それに……とバースは再び外を見る。
 周りはジョニーの乱闘によって混乱しており、冷静な判断をできる客などいなかった。
「ねぇ、バースちゃん……。何か、大変なこと考えちゃってる? ソフィー、嫌だよ、絶対イヤだからね」
「……オレ、疲れた。もうこんなウザイ場所なんかいられないね」
 バースの足にはいつの間にか炎をまとっている。
「バースちゃん!! まさか……え、えぇっ!?」
「バーニングアーツっ!」
 炎をまとった足がゴンドラの扉をぶっ飛ばし、炎の衝撃波がソフィーの髪を少し焦がしたのはご愛嬌。
「いやぁあっ! ソフィーの髪の毛っ! バースちゃん、危ないでしょっ! それにピンクの可愛い観覧車壊さないでよ!」
「煩いよ。どうしてオレが静かにお前に付き合ってないといけなんだよ。そもそもこんなところ行きたくもなかったのに勝手に行く事になってるしさ。こんな人間の施設なんか……ウザイんだよ。いっそなければいいじゃないか」
「バースちゃん、そんな事ここでしたら魔王ってオカマちゃんにばれちゃうよ!?」
「ちっ……面倒なんだから」
「だって、だってオカマちゃんを餌にしちゃっておびきよせるんだよね? だったら今ここで大暴れして、バースちゃんが魔王だってばれちゃったら意味ないんだよ!!」
「珍しく正論なんか言って……。でもだからってどうしてオレ達はこんな場所で遊んでるのさ? オレ達の目的は違うじゃないか。もういい、オレはオレの意思で行動する」
 バースはそう告げると、壊した扉から外に飛び出してしまった。
「ば、バー……きゃっ!!」
 バースがいなくなった途端、ソフィーの乗っていたゴンドラはバランスが崩れ、ソフィーは落ちないように椅子にしがみつく形になった。
「アルバート! 助けて! アルバート!!」
 二人の会話はまったく聞こえてはいなかったが、アルバートにはソフィーの自分を呼ぶ叫び声が届いたらしい。
 アルバートは、中からガラスにへばりつきソフィーの名を叫んでいる。
「ソフィー! ソフィー! 愛しのマイソフィー!!」
 どういう状況かは判らないが、ジョニーがキレてカップルが乗るゴンドラに攻撃をし始め、バースは勝手に扉を壊し、ゴンドラから出て行き近くのゴンドラを軽く焦げ目がつく程度に燃やして遊んでいるようである。
 ソフィーは一人、彼の名を叫び続けアルバートは早くソフィーの元に行きたくてしょうがなかった。
「バースっ! 俺のソフィーになんてことを……。うぉぉぉぉ、ソフィー! 今すぐに助けに行ってやるからな! 紅蓮の炎からソフィーを救いに……」
「黙れ」
 ロアの声のトーンに、アルバートの首筋に冷たい感触が走る。
「……まったくいけない子達だ。こんな事をしたら目立つって判っているだろうに」
「ロア……スマイル、スマイル☆ ほら、スマイルキャラなんだろお前って」
「笑う? おかしいことを言うね、この状況では笑えないよ」
「ロア、ここでキレるな!! 俺はまだ何もしてねぇぞ!」
「あぁ、それは知ってるよ。まずはあの二人を止めに行かないといけないね。アルバート、君は早くソフィーの所にでも行くといい。私はあの二人に話をつけてくるよ」
 是非、そうして下さい。とアルバートは心の中で言う。
 珍しくロアに反抗する気のない、することのできないアルバートは大人しくゴンドラの扉を無理やり開けると、ソフィーのいるゴンドラに
「今、行くぜソフィー! 君への愛の翼が俺の勇気になるぅ!!」
 飛ぶことはできないかわりに跳ぶことにした。


 ロアはジョニーに所に行く前に、ジョニーのいたゴンドラに寄っていた。
 ケイがきっといる筈である。そうロアは思っていたのだが、中を見てもケイの姿はない。
「……最初から乗っていなかったのか?」
 まさか落ちたのかと思い、注意深く見渡すも姿は見えない。
 では地上にと、地上を見ているとなにやら振り回す少女の姿は見える。
 どうやらあれは鎌でケイが振り回しているようだ。無論、客に攻撃をしているのではく自分の存在を知らせる為である。
「ケイは無事だな……なら早くジョニーを止めないと」
 風の力で飛び、ひたすらゴンドラに攻撃を仕掛けるジョニーの元へむかう。
「世界はアタイだけを見て! バカップルなんて照らさなくていいの! 輝くアタイだけをしっかり見ていてちょうだい! 月の光よ、アタイの美しさを世界に教えてあげてっ、メイクアップ!!」
「ジョニー」
「スポットライト、オォォンッ!!」
「いい加減にしなさい」
 溜息をつきながら、しかし躊躇なくジョニーの脛に蹴りを入れ、ジョニーは変な声をあげながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
「いたぁいっ! 脛は地味に痛いでしょうがっ!! ってロアぁ!?」
「呑気な……一体、自分が何をしたか判っているのかい? ゴンドラに喧嘩を売る人間なんて初めて見たよ」
「だって、聞いてよ! このバカップル達のいちゃつきを! 公害でしょう!? その公害を消すなんてアタイっていい子よね」
「ジョニー。そんな言い訳が私に通用するのかな? いいかい、言いたいことは色々あるが今はここから降りることを先にしよう。ほら捕まって」
「ちょっ! 腰もたれるとくすぐ……アハハハ。ところでロアはキャラ変更したの? 暴力に出るなんてキャラが違うよ??」
「……好きで蹴ったわけではないんだがな。まずキャラを変えたわけでもないし、変える気もない。君が気付かないからだろう」
「もうまったく。ボクの血がこう叫ぶんだよ。バカップルはすべて消せぇ! と」
「そんな危ない血は捨ててくれ」
「もったいない。ボクなら間違いなく、輸血に使って欲しいね」
「そのような血は恐ろしくて使えません。って何、変なことを話しているんだか……ジョニー?」
 下を食い入るようにジョニーはじっと睨みつけていた。
 その対象はソフィーを無事、救出してさっそく二人の世界に入るアルバートとソフィー。
「そうね……アタイとしたことが一番のバカップルを倒してないじゃない……。アタイの一生のライバルであるあのブリ娘を倒すまでは、アタイに安息の日々はなし!!」
 ジョニーは男としての腕力を活用して、ロアの腕を無理やりはがすと二人のいるところに落下していく。
「なんて、勝手な!」
 不思議とジョニーが落ちて死ぬとは思えず、ロアはジョニーを追うことをやめる。
「……ロア、ねぇロア」
「バース。君も君だ。なに勝手なことをしているんだい。まだ、ゴンドラを本気で燃やさないことは褒めよう。しかし、この騒ぎに便乗するなんて感心できないね」
「オレ達の目的はなにさ? ここで遊ぶ事? 違うだろ、オレは早く元に戻りたいんだよ! 勝手にオレ達の名前を名乗る雑魚もウザイし、人間もウザイ。全部ウザイよ! だから早く戻って殺したいんだよ……逆らう者すべてこの手でさ。まだ満足できない、オレはもっと……」
 ロアはバースの肩にそっと手を置き
「バース、落ち着け。君の言いたいことは判る。でも急いては事を仕損じる。それは判るだろう? 今、私達にできることをするしかないんだ。いいか、バース。今の私達は形は違うとはいえ、人間なんだ。それを忘れてはいけない、ぼろを出したらジョニーにすべてが判ってしまう。いやジョニーだけではない、私達の名を語る魔物達、そして魔王の大本の敵である、彼女にもね……。あれは一番面倒だ、何せ私達が相打ちでやっと勝てた相手なんだから。もし、私達が分裂して力が落ちてると知れば一気に攻め込まれる。それで死んだら元も子もないだろう」
「……うん」
「ならもう判るね? 今は嫌かもしれないが、必ず転機は訪れる。それがチャンスだ」
「判った。じゃあそれまで我慢する」
「よしいい子だ」
「……はっ? いい子!? ちょっと、何子供扱いしてんのさ! オレ、子供じゃない!!」
「私には子供にしか見えないけどね。皆、好き勝手やって……」
「別にそんなにっ!……あいつら……」
 バースにもアルバートとソフィー、そしてジョニーの姿が目に映る。
「……でもやっぱりウザイ」
「バース、今理解してくれた筈だよね?」
「あのウザイ二人だけ、片付けてくる」
「ちょっ、バース!? ……だからそういうところが子供だと言っているんじゃないかっ」
 どうしてこうも皆は好き勝手にやるのか、ロアには理解できなくなってきていた。
 バースは先に落ちたジョニーを追い越し、アルバートとソフィーがいるところまで落下していき、ジョニーは突然のバースの出現に驚きつつも、眼中にはソフィーしかなく鬼の形相のまま落下していく。
「まずいな……これ以上、ここにいると私達は目的を達成する前に捕まるかもしれない……。ならば
……このまま引くのが一番かもしれない」

NEXT
BACK

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送