「寒い、寒い、寒い、さっむぃーい!!」
 ソフィーは大声で騒ぎたて、ジョニーをいらつかせた。
「もう煩いっ! そんなの誰だって同じじゃないか!!」
「だって、だって、何で遊園地出て、少ししたら雪山なの!? 遊園地とか全然寒くなったんだよ!」
「……この大陸は異常気象が当たり前なのだろうか……」
「もう、どうしてロアちゃんはそんなに呑気なの!? アルバート……ソフィー、寒いよ」
 隣にいたアルバートに近寄ると、アルバートはソフィーの肩を優しく抱き
「安心しろソフィー、俺がソフィーのコートになるぜ。ソフィーの為なら毛皮のコートにでも、湯たんぽにでも何でもなってやるからな」
「頼もしいのね、アルバートvvこの中で一番薄着なのに、ソフィーのコートになってくれるそんな
アルバートが大好き★」
 雪山でも二人のいちゃつきは健在のようで、周りをまったく見ずにあっさり自分達の世界に入り込んでいる。周りから見ると腹立たしいこと間違いなしだ。
「うざい」
「女!」
「そう、うざい女……は?」
 ジョニーが食い入るようにある一点を見つめている。そこに立っていたのは、白い着物を着た女であった。
 バースのように肌が白いが、髪はバース同様とは言えず、銀にやや青みがかかっている。
「……女。あれもまさに理想!! そこの貴女、是非ボクのお相手をっ!!」
 ジョニーは大声で呼び止めるが女は止まらずに代わりにふっと微笑んだのち、きびすを返し消えた。
「ミステリアス……あの謎のオーラ是非とも……」
「なっ、消えたのか!? あの者一体……」
「そして雪山の中でのあの美しさ、何か秘密があるに違いない。きっと雪山四千年に伝わる秘訣が! 
ならボクのすることはただ一つ!!」
「ジョニー? 一体先ほどから何を言っているのだ? いまいち声が聞き取りにくいのだが……」
「待てぇ!! ボクの秘訣!! 是非ともパックに何を使ってるのか教えてっ!!」
「じ、ジョニー!?」
 一度『美』に目覚めたジョニーにはケイの声など届いてもいないし、存在すらすっかり忘れてしまっている。ジョニーの目的は美の秘訣であり、その為ならどこへでも一人で行ってしまうだろう。
「……まさかジョニーはあの女と戦う為に、一人先に行ったのか……?」
「ケイ、何をどう考えたらそんな結果になるんだい……」
「あんな真剣なジョニーは初めて見た……そうか、きちんと強くなることを自ら考えていたのだな。それに
気付かないとはわらわもまだまだか。皆の衆、ジョニーを追うぞ!」
 強さに目覚めたケイもジョニーと同様のようである。
「行ってしまったね、ジョニーもケイも……。バース、私はこれからが不安でしょうがないんだが、どうすればいいかな?」
「オレに聞かないでよ……」


 ジョニーとケイに数分遅れ、到着したバース達は思いがけない光景を目にした。
「何さ、この吹雪……でも、ボクの情熱のほうが強いね! さぁ、ボクと是非その秘訣についてお話を!」
「うふふふ、本当に馬鹿な男。わざわざ私を追ってくるなんて」
「お主、まさか雪女か? このような雪山に着物一枚でいる女子など、雪女以外に考えられぬ」
「やっと判ったのかい。随分、呑気な集団だねぇ」
 雪女は高らかに笑う。確かに雪女であるなら、こんな寒い雪山に一人でいることも、着物一枚しか着ていないことも納得できる。
「寒いわ、寒いのアルバート。まさに気分は貧乏人……こんな寒い中、愛するアルバートと一緒ならソフィーはどんなに貧乏でもいいのっ!」
「そんなこと言うなよソフィー! 俺はソフィーを伯爵夫人にしてやるって決めたんだから!」
「雪女か……なるほど、別にボクは秘訣さえ判れば。これはこれで楽しみだわ」
「また声は聞き取りにくいがジョニーのやる気……そうか、ジョニーは本気を」
「これは初めてのケースだね。こんなに馬鹿な集団は初めてだよ……」
「馬鹿な集団ってオレ達は違う! それより邪魔なんだよ、さっさと消えてくれる?」
「あら、そうはいかないわ。せっかくの餌ですもの。凍りなさい」
 雪女の高笑いと共に、吹雪は強さを増し六人を襲う。
 前が見えないほどに吹雪いて、指先の感覚がなくなりそうなほどであった。
「アルバートぉっ!!」
「ソフィー! 俺のソフィー!!」
「うるさい! こんな吹雪、オレの炎で消して……くっ、指先が」
「いかん、このままでは皆凍死するぞ!?」
 一番小柄なケイは、吹雪の風に耐え切れず鎌を雪山に刺し、しがみつくことしかできない。
「……バース、この風さえどうにかすれば倒せるね?」
「うん、ロア力貸してよ」
「勿論だよ。でもずっとは止められないよ、無風にしたいのであれば一瞬だ。その間に倒すこと、いいね?バース」
「判ってる」
 ロアの手に風が生まれ、その風を一つに集めると吹雪の中心である雪女に向ける。
 その瞬間、辺りは無風になった。
 僅かな時間でしかなかったのだが、バースにとってはそれで十分であり持ち前のスピードで、一気に雪女の間合いにつめよる。
「これで終わりだから」
 バースは冷たい笑みを浮かべ、炎をまとった拳を容赦なく雪女の顔に打ち込む。
 炎が顔に当たる度に雪女は声をあげて叫び続けるが、バースはその手を止めようとはしなかった。
 むしろ声が聞こえれば聞こえるほど拳を多く叩き込み、まるでその声を楽しんでいるようにみえた。
 その声がどんどん小さくなっていき、雪女の命が尽きていくことを知らせる。
 バースはもう雪女で遊ぶ事ができないのかとつまらなさそうに思うが、たった一言こう呟く。
「何だ、もう終わりなの? じゃあね」
 バースの黒いコートがひるがえる。そして彼の背後に立っていた雪女は溶けて消滅していた。
「……よくやったね、バース。ふと二人で一緒に戦ったことを思い出すよ」
「あぁ、そんな時期があったね。あの時は楽しかったよ、ロアとなら戦いやすかったし」
「そう言ってもらえるなら嬉しいよ」
「……お主達、そのような時期があったのか?」
「一時的にね。だから互いの戦いの癖とかは判るんじゃないかな? ……それよりジョニーはどうしたんだい? 姿が見えないんだが」
「まさか雪に埋まったのか?」
「あぁっ!! あの人は!? あの人はぁぁぁっ!!」
 ケイの想像通り、雪に埋まっていたジョニーは出てくるなり消滅した雪女を捜し続けた。


 雪女を倒した一行は北を目指した。
 地図によるとこの雪山を越えると森があり、更にそこを越えると街があるという。
「早く街に行きたいなぁ〜。ソフィー、寒いところいやだもん」
「安心しろソフィー。例え遭難しても、俺がソフィーのことを暖める。街に着いたらイチゴパフェ食いにいこうなー」
「ねー」
「あ、あぁ……ボクの、ボクの……」
「ジョニー、まだ気にしてんの? あれ敵じゃん」
「どうかしたのかロア?」
 先ほどから地図を見つつ一言も発しないロアにケイが声をかける。ロアは何か気になる事があるのか、真剣な表情である。
「さっきの戦いを思い出していたんだよ。吹雪を止める為に私は風の力を使ったが、あんな僅かな時間しか止められないとは思わなかった……思ったよりも力が落ちているらしい。あの時バースがいなかったら私達は負けていたのかもしれない」
「ロア、戦いは実力だけでは決まらない。運も必要だ。だから……」
「そうだな嬢ちゃん。確かに戦いには運が必要だぜ」
「何奴!?」
 ケイは天を仰ぐ。
「よう、半裸で見た目が鬼みてぇな奴が、お前等の上をプカプカ浮かんでたら驚くだろうなぁ」
 男の言うとおり、その男は浮かんでいた。
「よく神様と勘違いされて俺様としては悲しいのなんのって。俺様は神様なんかじゃなくて、天雷様よ。魔王様直属の部下、四天王のうちの一人さ。驚いたろ? 人間ども」
「し、四天王!?」
 口では魔王倒しと言ってはいたが、実際に魔王との接点などないだろうとジョニーは思っていた。
 それがこうもあっさり接点が出るとは思ってはおらず、声が裏返るのも気にせずに言葉を繋げる。
「け、ケイ! 出ちゃったよっ!!」
「そうだな。四天王か……待っていたぞ、この時をずっと……」
「悪いなぁ、俺様は人間が嫌いでねぇ。ここで死んでくれや」
「ふっ、そう簡単にいくと思ってるのか? このアルバート・ナイト・スター・ビューティフル・ブレードの錆にしてやるぜ!!」
「ソフィー負けないもん」
「殺してあげるよ」
「……皆いくぞ」
 怖気づくジョニーとは違い、五人は異様なやる気を見せていた。
 これは魔王としての性なのであろうか。部下相手に逃げるわけにはいかないと言わなくても、五人の心はもはや一つにまとまっていた。
 例え相手が自分の部下であっても、一度敵と見なせば全力で殺す。
「いいねぇ、その目。俺様を本気で殺ろうとしてるじゃねぇかよ、特にそこの金髪。目がギラギラしてるぜ」
「このアルバートの前に立つ敵は倒すのみ! 俺が世界の主役なんだよっ」
 レイピアを抜き、真面目な顔を見せたアルバートは地上に降り立った天雷に向けて剣を振りかざす。
「いい力してんなお前。でもちぃっとばかり遅いぜ」
 片手でアルバートの利き手を握り締め、開いた手はアルバート鳩尾に拳を入れていた。
「アルバート!! ぜったい許さない!! ソフィー、本気なんだから」
「嬢ちゃん。そんなに意気込んでも俺様には勝てないだろうよ」
「えっ」
 巨漢にも似合わず、素早い動きでソフィーの前に立ちふさがる。ソフィーは完全に天雷の影に覆い隠され、手にしていた杖を落としてしまう。
「ソフィー!!」
 体を押さえつつもアルバートは立ち上がり、ソフィーと天雷の前に入り込みソフィーにいくべき攻撃を代わりに受け倒れこむ。
「ちっ、弱いくせにいっちょ前に守るのか」
「うざいよ、お前」
「今度は女みたいな奴だな……そんな細い腕じゃ俺様は倒せないぜ」
「ならやってみれば?」
 ジョニーは完全に座り込み、ムチを振るう気力はとうの昔に消えうせていた。
 怖いという感情が彼を包み、一刻も早く逃げ出したいと思っていても腰が抜けて動けない。
「ジョニー、何をしておる!? 早く武器を持て」
「む、無理だ……ボクにはできない。できない!! だって四天王だよ、勝てない勝てないよ!」
「ケイ、無駄だよ。やっぱり無理があったよ。オレ達だけで十分だから」
バースは天雷の頭上を越え、背中に攻撃を入れようと拳に力を込めていた。

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