『星に願いを』


 短冊に願いごとを書き、竹に吊るすと願いが叶うという。
 そんな話をジョニーが聞いたのは、野宿の場であった。
「お主は七夕を知らぬのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……」
「年に一度、織姫と彦星が会う日と言われていてな、主は五色の短冊に歌や字を書いて飾り付け、書道や裁縫の上達を祈る意味があったそうだぞ。今では純粋に願い事を書く祭りになってしまったがな」
 ジョニーは昔の記憶を引き出し、以前家族で七夕をしたことを思い出す。思えばあの時は「有名女優になりたい」と大きな字で書いたものだ。
「……ねぇ、やっちゃおうか。七夕」
 ジョニーの突然の提案にケイは、
「お主、まことか? まぁたまには悪くはないな、なら他の皆にも言わねばなるまい」
 仲間との七夕。
 少しだけ期待を抱きながらもジョニーは他の仲間にこのことを伝えに走った。
 そして皆にこのことを知らせるとやや驚きながらも、賛同してくれた。「では……」と、竹を探しにいったほうがいいと竹を探しにいくもの、短冊を町から調達してくるものと準備は思ったより早く進んでいった。


 時は移りてその日の夜。
 ジョニー達の前にそびえ立つのは青々とした竹。見た目もよければ、その大きさもかなりもある。
「凄い竹……よくこんな大きなやつ見つけてきたね」
「へへっ、これくらい俺達に任せろって!」
「ソフィーの魔法があればラクチンなんだからね★ それよりアルバートが大きな竹を担ぐ姿はかっこよかったんだからねっ」
「ソフィーの為なら黄金に輝く竹だろうがこれよりも大きい竹でも楽々担いでやるからなっ。それにしても織姫と彦星も可哀相な奴だな。年に一度しか会えないなんてよ」
 空を見上げると年に一度の逢瀬を邪魔しないように星たちは輝き続けている。それは雲ひとつなく、逢瀬にも七夕にも最高のシチュエーションといえた。
「ソフィーとアルバートはいつでもラブラブだもんね。一年に一回だけじゃ飽き足らないもん! ずっと傍にいなきゃ寂しくて泣いちゃう」
「俺がソフィーから離れるわけないだろう? 俺は地の果てまで追うぜ、どんな困難な道が俺を待ち構えていようとも俺は絶対にソフィーを……」
「くどい」
 バースがペンで二人の中に入りこむ。
「うぉい、邪魔すんなって……」
「毎度毎度聞かされてるこっちの身になってほしいんだけど。短冊に願いは書かないわけ?」
 彼の手にはねずみ色の短冊。その短冊にはまだ何も書かれてはなく、これからどんな願いを書くのかジョニーはひっそりとそれを気にしていた。
「おっと、じゃあさっそく一筆……。ソフィーといつまでもラブラブでいられますよーに! だな」
 黄色の紙にでかでかと書かれた願い事は実に彼らしい。そしてソフィーもピンクの紙にアルバートと同様な願い事を書くところがこの二人の仲の良さをあらわしている。
「何だか君達って本当にわかりやすい願い事を書くよねぇ」
「そーゆーオカマちゃんは何を書くのよぉー?」
 「ん、ボクかい?」とジョニーはオレンジ色の短冊に視線を落とす。本来なら女優になりたいと書きたいところだが、女優という単語はまだ皆に言っておらず変に突っ込まれても後が面倒だ。しかし願い事といわれてしまうと、どうしても女優の夢が頭の中でちらつく。
「……演者になりたいっと、まぁこんな感じ?」
「演者、だから町に劇場があるとお主はあんなに喜んでおったのか」
「まぁね。劇自体見るのが好きだから」
 よいしょっと竹に短冊をくくりつける。さり気なく高い位置につけたのは願いが叶って欲しいという願望か、きっと俗説で一番高いところにくくりつけると願いが叶いやすくなるなどという話があったせいだろう。
 一方、バースはというといざ短冊を目の前にすると何を書いていいのかわからなく、短冊とペンを睨みつけていた。
「バース……顔が怖いよ」
「だって何書いたらいいかわからないんだよ。じゃあロアはなんか書いたわけ?」
 ロアの持つ群青色の短冊を取ろうとしたが、ロアはそれをうまく回避し
「いやまだかな。物価が低下しますようにだと現実的すぎるだろう?」
「というか主夫的だよそれ。本当、どうしよう。特別書く内容なんてないし」
「……胸が大きくなりますようにと書いたらどうだい?」
 ロアは満面の笑顔。
「オレは男っ! 馬鹿にしてんの!?」
 逆切れするバース。
「冗談だよ、私が本気でそんなこと言うと思ったかい?」
「……あ、有り得なくもない」
「さり気なく酷いね君」
「ロアがからかうから悪いんだよ」
 ふんと拗ねるバースを見て、「やりすぎたかな」とロアが呟く。それ以降、ロアはあまりバースを刺激せぬように真面目にどんな願いことにしようかなどと聞いてくる。
「それ、ボクもすっごーく気になるね。理想であるバースの願い事なんてボクにとっても願い事なんだから」
「別に関係ないじゃないか、ていうかいつまでオレを追いかけるつもりさ」
「もうそれは地獄の果てまで! 理想を完全にする為にボクは君を追い続けるさ。で、願いごとは? さぁボクに言ってごらん」
「……ウザくないのが増えませんように、これでいいや」
 バースはさらりと本気のようでふざけているような願い事を短冊に書き始め、ジョニーは顔を引きつらせながら
「そ、そんな願い事って……! もっと綺麗になりたいとか美しくなりたいとか、女性になりたいとか、胸が大きくなりたいとか」
「お前までそれを言うわけっ!? だからオレは男! オカマになる気はない!」
 二度目の『胸』発言にバースは手にしていたペンをべきりと折ってしまう。無事、願い事は書き終わっていたのでペンを使う必要はもうないのだが、何故こう短時間のうちに同じことを言われるのかそれが不思議で仕方ない。
 バースは第一に言った男、ロアを見ようと後ろを振り向くがそこに彼の姿はなくかわりに彼は竹に自分の短冊をつけているところだった。
「ねぇ、なんて書いたの?」
「色々考えたが……これから先、穏やかな生活が送れますようにってね」
「つまらないというかロアらしいというか」
「寿命まで生きられるのって凄くいいと思うけどね」
 天寿を全うする、すなわちそれはロアがいや『ロア達』がそれぞれの人生を全うすること。魔王に戻らずにこのまま人生を終えたいというかすかな願いがこの短冊には込められていた。
 一見、つまらない願いだがそう考えると実に深い願いだ。ただその真意を知る者はごく限られた者であったが――
「実にいい願いだな。わらわも似たようなことを考えておったぞ」
 ケイは小豆色の短冊をくくりつけながら言う。
「ならどんなことを短冊に書いたのさ?」
 彼女は身長が低く、自然と竹にくくりつける場所も皆に比べて下のほうにつけている。なので、軽く覗き込めば彼女の願いはあっさり見る事ができ、ジョニーはひょいっと紙をめくる。
「……よ、読めない。達筆すぎて……」
「お主は字も読めぬのか? これは皆が変わりなく同じ時間を過ごせるようにと祈願したのだ」
「変わりなく同じ時間を……ね」
 ジョニーは周りを見渡す。
「アルバート、見て見て! さっきからお星様がキラキラしてるの。キレイだね、アルバートv」
「あの星も十分にキレイだけど、それよりもソフィーっていう名の星のほうがキレイで可愛いぜ」
「きゃぁ、アルバートったら★」
「あの夜空をすべてソフィーにプレゼントしたいぜ……。これならいつでもキレイな夜空が見られるだろ?」
「じゃあアルバートも一緒に見ましょうね。これでソフィー達は毎日キレイなお星様を一緒に見られるんだからぁ」
「本当、馬鹿らしい。よく言ってて飽きないよねあの二人」
「まぁいいじゃないか、でも星が綺麗なことには変わりないよ。君もそう思うだろう?」
「ん、まぁ……ね。綺麗だと思う」
「なら私達もこの夜空を楽しもう、滅多に見られないのだからね」
――あぁ、なるほど。同じ時間って……
「つまりあれだね。来年も皆で七夕しようって話だ。来年だけじゃなくてこれからずっと。ケイはそういう願いごとにしたんでしょ?」
「うむ。その通りだ」
 ケイはゆっくり空を見上げ、星と共に輝く天の川を見た。織姫と彦星はこの天の川を渡って逢瀬をするのだからきっと今頃あの二人はどこかで会っているに違いない。
 そんなことをジョニーはふと思いながら、自分達は天の川など使わなくても毎日会える喜びを知るべきかもしれないなと心の中で言ったのだった。

<後書き>
時期ですよねという話(おい)もう普通に終わってますが……。しかもこれって話的に一章だし、なんで二章部屋にあるんだか……。まぁ書いた時期、もう「Fate」が二章に移っていたそれだけです(笑)
まだ皆が魔王だなんてジョニーは知らない前提に書いていたりします、コレ。だから願いがなんかこう
「同じ時間を共有云々」とか言ってるわけですな。
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