それはまるで興味で開けてしまったパンドラの箱のよう。
 そのせいで戦いを生み、傷つけ、新たな敵を作ってしまった。
 でもパンドラの箱同様に、一番最後に希望を作った。

 僕はそんな希望嫌いだ。



『月の元で』



「ねぇ、本当なの? 本当にするの?」
 何度同じ台詞を言っただろうか。その度に不安を覚え、もしかしたらいい返事が返ってくるのかも
しれないと期待していた。
 でも彼の決意は変わらず、真剣だがそれと同時に優しい表情で頷いた。
「しなければいけない。きっと今の私にできることはこれだけなのだと思う」
「でも危険なんだよ! 僕は嫌だよ! だって、だって……」
 スタースクリームのパートナー歴はさほど長くはないが、だからといって短くもない。
 ずっと一緒にいて彼の心の変化を理解し、よく思っていた。
 道具としてしか見なかった自分をパートナーとして扱い、何かあったら心配してくれる。
 それが少しくすぐったくて、でも凄く嬉しかったとまだ告げずにいる。
「グリッド、迷惑をかけるが頼む。解ってくれ」
「解ってって言われても僕どうしたらいいか解らないよ。だっていなくなっちゃうのに、もう会えないだよ!」
 きっと彼は明日、自分の前からいなくなってしまうだろう。
 それが戦士の定めと言ってしまえば聞こえがいいかもしれないが、そんな言葉で片付けられるほどの仲ではない。
 いなくなったら困る。寂しい。
「生半端ではきっと通じない。私もすべてかけなくてはいけないのだと理解した」
「でも悲しい人がいるよ! 僕だって皆も、それにアレクサも!」
「……もうあまり言うな。何を言われても私はこの決意を変える気はない」
「それで皆の気持ちが一つになっても僕はやっぱり悲しい。傍にいないのは寂しいよ」
 思わず腕を掴む。離れないでと行かないでと。
「そんな悲しい顔をしないでくれ。私のことなど何も思わなくていい、私はお前を道具として扱ってきたのだから」
「違う! そんなの最初だけだったよ! 後は僕のこと大事にしてくれたよ、僕だけじゃないよ。マッハ達も
大事にしてきたじゃないか!」
 でも彼は明日、そのマッハ達と刃を交えることになる。
 それを知っても彼はゆく。結果を知っていても彼は勇敢に立ち向かって散っていくのだろう。
 出会った時はそんな事になるとは想像もつかず、彼に道具として扱われ終わるのだと思っていた。
「……ごめんね、わがまま言って。僕はもう平気、だから明日は頑張って」
「あぁ」
 ありがとうとか、嬉しかったという言葉は出てこなかった。
 また言えなかった。
 ただ優しくあやす手から離れたくないと思い、体にしがみつくしか出来なかった。


 最後の希望のおかげで皆は幸せになったと言うが、本当に幸せだったのだろうか?
 僕の姿を見ると、皆は一瞬悲しそうな表情を浮かべ慰めの言葉をかけてくれる。
 それが僕にとって悲しい。そんな顔しないで、僕は平気だからと何度も言う。
 この悲しさを決意に変えるのだと彼女は言っていた。
 僕もそう思う。

 でもね、
 やっぱり傍にいてほしかったよ。何か足りなくて少し寂しい気持ちになっちゃうから。


後書き
ホント、自分はスタスクが好きだと思う。勿論、グリッドも可愛くて好きさ!個人的イメージでは
やや弱気な感じかな。強気ではないと思う。だから一人称は僕でやや寂しがってみたり、マッハ達ばっかりが可愛がられると拗ねたり(笑)きっとお花が好きで優しい子なんだ!

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